BOTANIST Journal 植物と共に生きる。

BOTANIST journal

SUSTAINABLE 15

ソメイヨシノを守りたい。桜守の活動に参加して気づいたこと。

2022年冬、サクラ香るボタニカルスプリングシリーズの発売を前に、BOTANISTのスタッフたちは兵庫県立明石公園へ。目的は、ソメイヨシノの保全活動の視察です。「さくら名所100選の地」にも選ばれる同公園の美しいソメイヨシノを守るために、どのような取り組みが行われたのか? そこから何を学んだのか? 当日の様子をレポートします。

ソメイヨシノに寿命はあるのか。

春になると日本中を美しく染めるサクラ。その約8割を占めるとされる品種がソメイヨシノです。ソメイヨシノは接ぎ木や挿し木で増え続けてきた、いわゆるクローン。すべての個体が同じ特性を持ち、時期が来れば一斉に咲き誇り人々を魅了します。

サクラには数百年を超えて生きる品種も有り、ソメイヨシノは早熟巨大になり、傷みも目立ち易く、60年で寿命だとも言われています。しかし、これらは多分に、手入れ不足によるものです。手入れ次第で、100年を超えて、200年でも行き続けることは可能です。

BOTANISTは2022年春より、ソメイヨシノを後世に残すためのアクションをスタート。ボタニカルスプリングシリーズの売り上げの一部を「(公財)日本さくらの会」を通じて寄付し、樹勢回復などの保全活動を支援しています。

兵庫県立明石公園の桜守活動とは。

初年度の寄付先となったのは、兵庫県立明石公園。広大な園内に約1,400本のサクラが咲き乱れ、「さくら名所100選の地」に選ばれている名所です。

ここでは毎月、公園の指定管理者である「(公財)兵庫県園芸・公園協会」の方々をはじめ、ボランティア団体「明石公園桜守ボランティア」と、「NPO法人兵庫県樹木医会」のメンバーによる 、サクラの保全活動が行われています。

そこで2022年12月初旬、活動を視察するために、BOTANISTブランドディレクターの東野 藍子、アートディレクターの櫻谷 冴子らが現地へ向かうことに。「(公財)日本さくらの会」から、主催者である浅田樹木医も駆け付けます。

さらに当日は、近隣小学校でサクラを守る取り組みをしている教員と桜守ボランティアの方々や、民間企業の(有)荒木植物園の荒木樹木医など、たくさんの見学者が集結。寒空の下、現場は開始前から活気に満ち溢れています。

サスティナブルな枯れ枝剪定。

今回は東芝生広場にある、ソメイヨシノ7本の樹勢回復作業を行います。まずは、枯れ枝の剪定から作業スタート。浅田樹木医と和田樹木医の指示の下、次々と枝を切り落としていきます。普段、細い枝の剪定は活動メンバーが手作業で行っていますが、今回は太い枝の剪定が中心とのことで、チェーンソーを扱える業者の方がサポート。大胆に切り落とす様はなかなかの迫力です。

一見すると、太く立派な枝を切ってしまうのはもったいないように感じてしまいます。しかし、切り落とされた枝を見ると艶がなく、中身がスカスカだったり、ブヨブヨだったり。病気になった枝を正しく見極めるプロの仕事に驚かされるばかりです。

「幹が元気なら、枯れ枝を切り落とすことで木は生き返ります。また、植栽間隔が狭く密になっている場合、次第に伸びた枝が交差して、太陽光が当たらない部分が出てきます。日照不足になると光合成ができず、枯れ始める原因の一つになりますから、上手く枝を剪定していくことが重要です」と浅田樹木医。

和田樹木医も「『桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿』ということわざがある通り、サクラは枝を切らないことが、梅は枝を切ることが成長に良いと考えられがちです。しかし、サクラも適度に剪定しないと、成長が妨げられます。大切なのは何年も先を見据えながら、今やるべきことを実行することです」と話します。

処理後の切り口には、人体に安全で環境にやさしい資材である「樹木の味方」を塗布。ソメイヨシノは菌が入りやすいため、こうした保護資材によって防菌するひと手間が重要なのです。

また、切り落とした枝はそのまま廃棄するのではなく「タウンビーバー(剪定枝粉砕処理車)」を使ってチップ化。固い枝があっという間に飲み込まれ、細かいチップとなって排出される様に、全員が釘付けです。出来上がったチップは、堆肥として再利用。理想的な自然の循環を実現するサスティナブルな試みに、BOTANISTメンバーも関心しきりです。

長く効果を発揮する土壌改良と施肥。

続いては、土壌改良と肥料を施す作業。樹木医の先生方の見立てによると、今回の作業現場となった東芝生広場の土壌は、固く、酸性も強い様です。また、養分も少ない様です。強酸性土壌、養分不足で生育不良になっているようです。手入れが必要です。

普段から活動するメンバーは、ドリルやスコップを持つと慣れた手つきで地面に穴を空け、「グリーンパイル」という筒状の細長い肥料を打ち込んでいきます。「この肥料は、時間をかけて成分が溶け出す構造です。一度打ち込んでおけばゆっくり長く、ソメイヨシノの生育を助けてくれます」と浅田樹木医。

一方では同じく地面に穴を空け、竹を埋める作業を行います。長さ20cm程度の竹を真っ二つに割った後、節を取ってから再び合わせ、紐で結んで筒状にしたものを作っては埋めていく和田樹木医。「これは、地中に空気を通すためのものです。空気が少ないと根が張りづらくなり、ソメイヨシノの成長が止まってしまいます。だから、自然にやさしく頑丈な竹で、踏み締められても塞がれない通り道を仕込んであげるんです」

大切なのは、続けること。

こうして、一連の作業が無事に終了。最後に浅田樹木医が全員に語り掛けます。「ソメイヨシノは植えたら植えっぱなしでは、栄養不足や環境の悪化により傷みが発生し、枯れて行きます。しかし、きちんと手入れすれば、想定を超えて長く生きてくれるものです。今日の作業の効果がすぐに目に見えて現れるわけではありませんが、少しずつ幹や枝に艶が出てくれば元気を取り戻している証拠。そこから、今年の枝の伸びはどうか? 来年の葉の付き方はどうか? 再来年の花の咲き方はどうか? 注意深く見続けながら、次の手入れの方向性を考えていってください。ぜひ地域の方々で協力し合って、守り続けられるよう願っています」

また、ブランドディレクターの東野も「今回の視察を通して、公園のサクラを守るために、さまざまな立場のたくさんの方々が関わっていることを知ることができました。また、作業をしたからといってすぐに樹勢が回復するわけではなく、何年、何十年と長く見続けていって、初めてその効果が分かるものだと理解できました」と話しました。

これからも「植物と共に生きる」というブランドメッセージの下、「継続的に足を運びながら、成長を見守り支援していきたい」と、気持ちを新たにしたBOTANISTメンバー。今後のボタニカルスプリングシリーズを通したソメイヨシノ保全プロジェクトに、ぜひご期待ください。