BOTANIST Journal 植物と共に生きる。

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SUSTAINABLE 01

アイデアが世界を変える〜オランダから学ぶサスティナビリティ

ボタニストが大切にしているボタニカル、サスティナブル、というキーワード。 それを紐解くのに、今、オランダという国がたくさんのインスピレーションを与えてくれます。

自由な気風でデザインやアート、花を愛する国民性、そして、環境先進国としても世界から注目されているオランダ。 たとえば、近年の気候変動や大気汚染によって、世界各地でミツバチが姿を消してしまう問題。ユトレヒトでは、300余りのバス亭の屋根に多肉植物のセダムを植えて緑化し、ミチバチが受粉できる環境を作りました。 オランダのフラッグシップ キャリアであるKLMオランダ航空は、創業100周年を迎えるにあたり「Fly Responshibilty〜責任ある航空旅行」を呼びかけるキャンペーンを開始しました。 人々に「荷物を減らしてCO2輩出量を減らしましょう」「飛行機の代わりに電車を使いましょう」と呼びかけ、他国、他企業と連携して地球規模の重量削減やリサイクル、CO2ゼロカーボンオフセットに務めて持続可能性への取り組みを推し進めています。そんな、地球が今必要としているサスティナブルの実現のために、オランダでは大小のプロジェクトが次々に生まれ、進行しています。 今回は、そのいくつかを紹介しましょう。

インストック INSTOCK

まだ食べられるのにも関わらず廃棄される食材を、地域のスーパーマーケットやベーカリー、生産者などから回収、一流のシェフが調理して提供。低価格で食材を調達できるため、一流の料理がリーズナブルに味わえる大人気のレストランです。 インストックの“Rescued Food into Delicious Meals“というアイデアは、オランダ最大のスーパーマーケットチェーン、アルバート・ハインの従業員たちから生まれました。毎日大量に出るフードロスを何とかしたいと、社内のビジネスコンテストでプロジェクトを提案。アルバート・ハインの全面支援を受け、2014年にアムステルダムに1号店がオープンしました。現在はハーグ、ユトレストにも出店しています インストックがユニークなのは、料理を食べに行くだけのレストランではないこと。インドライフードや発酵食品づくりのワークショップの開催、子ども向けの教育プログラムを学校に無料で提供するなど、地域の人々が廃棄食品に関心を持ち、交流を深める役目も担っています。また廃棄パンやじゃがいもの皮を材料としたクラフトビール、その絞りカスを使ったグラノーラなどオリジナル食品の開発やクックブックの出版など様々な活動を通じて、廃棄食材を救い、活用、循環する考え方やメソッドは、地域全体へと広がっています。

https://www.instock.nl/

アールスメール花市場 Aalsmeer Flower Auction

オランダといえば、一面のチューリップ畑の圧巻の景色が思い浮かぶ人も多いのでは?世界一、花を愛する国民といわれ、農業先進国でもあるオランダ。首都アムステルダム郊外のアースメールには、世界最大の花市場があります。サッカーグラウンド125個分という広大面積の市場で、世界中の花の6割以上を取り扱っています。オランダの花農家で栽培された生花や鉢植えだけでなく、アフリアやイスラエルなど世界各地から集められた花が、先端的なシステムとによって取引きされ、驚くほどスピーディーに、再び国内外へと運ばれていきます。 見学用の通路から、花々が行き交うダイナミックな様子を眺めることができ、観光の人気スポットにもなっています。 オランダが花大国として発展を遂げたのは、国が政策として生産から物流まで合理的で近代的なITシステムを構築したから。しかし近年は、先端的な技術による栽培につきものの農薬や地下水の汚染、地球温暖化などへの取り組みを強化し、低農薬や養液栽培、園芸用土の再利用などを推進し、世界の花業界へも影響を与えています。 https://www.royalfloraholland.com/en

ピート・ヘイン・イーク Piet Hein Eek

スクラップ材木や工業廃棄物の壁材などを使った家具や壁紙、雑貨を発信、世界中に多くのファンを持つデザイナー、ピート・ヘイン・イーク。彼の拠点は、オランダ南部のアイントホーフェンにあります。 アイントオーフェンは、デザイン大国といわれるオランダで最大のデザインイベント、ダッチ・デザインウィークが開催される街。多くも著名デザイナーを輩出してきたデザインアカデミー・アイントフォーヘンがあることでも知られています。 ピート・ヘイン・イークも、このアカデミーのインダストリアルデザイン学科を1990年に卒業、1993年に自身のデザイン会社を設立しました。工場の跡地をリノベーションした場所に工房、ショップ、ギャラリー、レストランも併設されています。 それぞれの廃材の形状や状態、色からインスパイアされ、時間と手間をかけてカットしたり組み合わせたりして新たに構築されて創り出される作品は、ユニークでウィットに溢れ、まるでアートのよう。古いもの、捨てられたものを新しく蘇らせる”サスティナブル”な製品に高級家具並みの価値を持たせるアイデアやデザイン。それを育むオランダという国を、ビート・ヘイン・イークはシンボリックに体現しているといえるかも知れません。 https://pietheineek.nl/

ロッテルズワム Rotterzwam

地域に密着し、閉じられたサイクルの中で原材料を最大限に生かす、野菜を多く摂る食生活を薦める、というコンセプトを掲げて、ロッテルダムのサスティナブルな活動のハブとなっている場所。 特に、地元のカフェから集めたドリップ後のコーヒーかすを肥料として、オイスターマッシュルームを栽培。地域のレストランやスーパーマッケットに販売して成果を上げています。わずか8つの使用済み冷凍コンテナの中で、毎月6〜7,000キロのコーヒーかすが、1200〜1400キロのマッシュルームが育ちます。地域のレストランで味わえる「ロッテレウズワム ビターボール」という料理は名物になりました。そうしたサーキュラーエコノミー(循環型経済)を学べるワークショップや栽培キットの販売、子どもたちへの教育活動も行っています。 https://www.rotterzwam.nl/

カルチャーキャンプサイト Culture Campsite

ロッテルダムは、ヨーロッパ最大の国際港を擁する活気に満ちたオランダ第二の都市。サスティナビリティへの取り組みも盛んです。 カルチャーキャンプサイトは、ロッテルズワムと同じ敷地にあり、廃材を再利用して作られたそれぞれユニークなデザインのある小さな建築物に宿泊できる施設。旅行者だけでなく、カンパニーミーティングなどにも利用され、ヨガのワークショップなど参加型イベントも開催されています。アートと建築、サスティナビリティの最前線を体感できます。 https://www.culturecampsite.com/

まとめ

こうした事例を見ていくと、もちろん国家規模、大企業主導のプロジェクトも重要だけれど、個人や小さなグループから生まれたアイデアやデザインに、地域の環境や人々の暮らし方をサスティナブルなスタイルへと変えていく、そして世界へと発信するパワーがあることがわかります。 そして毎日、食べるものや使うものも、何をチョイスし、残ったゴミをどのように捨てたり再利用できるのか、ひとりひとりが考えたり実行する大切さに気づかせてくれます。

KLMオランダ航空は、創業100周年を迎えるにあたり「Fly Responshibilty〜責任ある航空旅行」を呼びかけるキャンペーンを開始しました。