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オランダで学んだ
植物との暮らし、古いものの尊さ
JR豊橋駅から車で約15分。多くの店が立ち並ぶ賑やかな小松原街道沿いにありながら、一歩足を踏み入れるとまるで別世界という、独特の存在感で佇むのが植物とインテリアの店「garage」です。
代表の二村昌彦さんは、愛知県豊橋市にある種苗会社の次男として生まれ育ち、幼い頃から植物は身近な存在。大学卒業後はホームセンターに就職し、園芸部門などを担当しながら9年間勤務しました。その後オランダに渡り、現地の種苗会社の農場に1年半程勤めて帰国。「garage」をオープンするのですが、店づくりにはこのオランダでの日々が大きく影響しています。
「オランダでは、今日は天気が良いから花を買おうといった具合に、みなさん特別な理由がなくても日常的に花や植物を暮らしに取り入れているのが素敵だなと感じていて。日本だと花は特別な時に買うものといったイメージがあって、花屋に入るのも敷居が高いなと感じていたんです。だから日本に帰ったらオランダのように、誰もが気軽に立ち寄って花や植物を買える店をやりたいという想いが膨らみました」と二村さん。
また、中学生の頃からインテリア雑貨に興味が湧き、高校・大学時代も雑貨屋巡りを趣味としていた二村さん。オランダでもインテリア雑貨を探しますが、特にブロカント(古道具)に惹かれるようになったといいます。
「日本にいる時は古いものはあまり好きではなかったのですが、オランダでブロカントを見ていると使い込んだ味わいが良いなと思うようになり、蚤の市を回って集めるようになりました。オランダはこうしたブロカントや、街に築何百年もするような家が普通にたくさん建っていることもそうですし、古いものでも修理して大切に使い続ける文化が根付いていて、素敵だなと感じていました」。
植物との暮らしを彩る
グリーンライフスタイルショップ
オランダから帰国し、2007年に「garage」をオープンした二村さん。「植物と暮らす」をコンセプトに、自身が好きな植物とインテリアを軸としてスタートしました。
現在、敷地内には「yard」「home」と名付けられた、趣の異なる二つの建物が隣接しています。元祖「garage」は「yard」のほうで、こちらは元鉄パイプ会社の倉庫だった建物をリノベーションしたもの。ここに植物とオランダで買い集めたブロカントをアクセントとして並べたのが、「garage」の始まりでした。
今も「yard」は元倉庫の雰囲気そのままに、植物やドライフラワー、大きな鉢などを陳列。やや薄暗く無機質な空間の中に生命力溢れる植物が枝葉を伸ばし、独特のムードを醸し出しています。実は「yard」は仮店舗で、「home」が完成したら取り壊して駐車場にするはずだったのだとか。ところが、「home」の工期が予定よりも大幅に延びる中で「yard」がどんどん素敵な空間として育ち、お客様の「壊すなんてもったいない」という声もあったことから残され、今に至っています。
一方「home」は白を基調に、天井に設けられた大きな窓から陽光が射し込む、明るく開放的な雰囲気。2階建ての建物の1階は植物やガーデニングツール、2階はインテリア用品が並んでいます。ツールコーナーには二村さんを始め、スタッフが実際に使っておすすめしたいと思ったアイテムをセレクト。スコップやバケツ、鉢などのいわゆる園芸道具に留まらず、ウエアや帽子、バッグなど幅広い品揃えです。さらにインテリアコーナーを覗けば、花器や食器、装飾雑貨などの小物から、椅子やソファといった家具までラインナップ。植物と相性が良いという基準で選ばれたアースカラー中心のアイテムは、どれもシンプルながら洗練された雰囲気をまとったものばかりです。
二村さん曰く「元々は『植物とインテリアの店』としてスタートしましたが、次第にスタッフも含めて『植物が好きな自分たちが欲しいものは?』という考え方に発展して、扱う商品の幅が広がりました。自分たちでは『グリーンライフスタイルショップ』と謳っています」。
広大な敷地にたくさんの植物とセンス溢れる道具やインテリア雑貨、家具などが並ぶ「garage」は、目的がなくても何か面白い出合いを求めてフラリと立ち寄ってみたくなるような場所。気軽に入れる植物の店からさらに一歩進んだ間口の広さで、多くの人を惹きつけています。
廃材に新たな命を与える
garage流のサスティナブル
さらに「garage」の特徴となっているのが、廃材などを活かしたおしゃれなディスプレイや内装。例えば木目が美しい壁や棚は、工事現場の足場板をリメイクしたものです。普通は処分されるところを譲ってもらい、二村さんらスタッフ自らが作り上げました。パイプを組んだようなおしゃれな什器も、元は錆びて使い物にならなくなった管。捨てられかけていたのをもらってきて、同じく自分たちで組み合わせました。
「ホームセンターに勤めていたこともあり、材料やDIYのノウハウはそれなりにあるので、手作りのものが多いです。店の大きなカウンターもオープン時に作ったもので、今も補修しながら大切に使い続けています。オランダでの経験も大きいですし、特にオープン当初お金は無いけど時間はあるという状況だったので(笑)。なるべく費用をかけずに、店を何とか素敵な空間にするために色々と工夫してきました」と二村さん。
「以前はゴミにしか見えなかったものも、視点を変えれば『もったいない! これも使える! あれも使える!』と宝の山に見えてくるもの。そして色々なものを作れば作るほど、次々と新たな創作のアイデアが湧いてきます。木材など自然素材であれば一つひとつ表情が違うので、より良く見える向きや組み合わせを考えながら作るのも楽しいんです。とにかくずっと『捨てればゴミ、使えば宝』という精神でやってきて、それは今も変わりません」。
同様に、使われなくなった道具に新たな役目を与えるのも二村さんの特技。オランダから日本へ荷物を送る際、現地で林檎の収穫に使うアップルボックスを大量に使用しましたが、その箱も「yard」の壁面に並べて商品棚として活用しました。独特の味わいが目を引き、今では「yard」のシンボル的存在になっています。
他にも、使っていたバケツに穴が開けば、植物の鉢として再利用。半分土に埋めて飾れば、雰囲気のある鉢に様変わりします。店の庭木の剪定で出た枝も、店内の装飾に活用。「yard」の裏手、駐車場から店内へのアプローチに使われている大きな石板は、コンクリート処理場に捨てられていた破片をもらってきて埋め込んだものです。冷凍食品工場の駐車場に捨てられていた什器も譲り受け、大きな鉢のディスプレイに使っています。
二村さんの目に映るものは、どのようなものでもゴミではなく宝。サスティナブルという言葉が叫ばれるようになるずっと前から、「garage」は独自のサスティナブルを追求していたのです。
生活を豊かにしてくれる
植物の魅力を伝え続けたい
独自の店づくりで唯一無二の存在となった「garage」。今後も「グリーンライフスタイルショップ」として、植物と暮らす素晴らしさを伝えていくことを使命としています。
「まずは小さな植物を一つ買ってテーブルの上に置いてみるだけでも、ちょっと空気が変わると思うんです」と二村さん。「そうすると、今度は部屋にもう少し大きな観葉植物が欲しくなって、置いてみると空間が変わる。次に窓の外に目をやると、庭が雑草だらけなのが気になって、きれいにして木を植えてみる。誰かが遊びに来て素敵ですねなんて言われると、嬉しくなってもっと庭をきれいにしたくなる。さらに植物は生きているので、育てていると日々変化があるのも面白くて。庭の木が成長して伸びたら剪定してその枝を食卓に飾ってみたり、花が咲いたら吊るしてドライフラワーにしてみたり。スワッグやリースを作るなど、楽しみはどんどん広がります」。
最初の小さな植物一つをきっかけにして、生活が豊かに変わっていく。そんな提案をお客様にしていきたいと、二村さんは笑顔で話します。
また、最近では以前から気になっていた畑づくりに着手。ビニールハウスを完備したその場所で、植物の生産や新たなサイクル作りを模索しています。
「店には生産者の方が育てた植物を一番良い状態で納品してもらいますが、やはりものによってはお店に来てから調子を崩してしまうんです。そんな植物たちを処分するのではなく、もう一度元気に復活させる再生の場として、このビニールハウスを使えればと考えています」。
これまで廃材の有効活用など、サスティナブルを地で行く店づくりを行ってきた同店。未来に向けてまた一つ、新たなgarage流のサスティナブルが動き出しています。
Youtubeにも同時公開しておりますので、動画でもお楽しみいただけます。
♯プロフィール
「garage」二村昌彦
1973年生まれ。植物とインテリアの店「garage」代表。2007年にオープンした愛知県豊橋市の本店を含め、現在は名古屋、横浜、立川に計5つの店舗を構える。店では音楽イベントやアートの展示会、ワークショップを開催するなど、植物とインテリアの販売に留まらず幅広く展開している。
http://www.garage-garden.com/