BOTANIST Journal 植物と共に生きる。

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HOW TO 04

Cinema × Sustainable #3 「サステナブルの根本にあるのは“自然をリスペクトする”ということ」

サステナブルがテーマの映画作品を毎回1本セレクトし、いま注目のクリエイターの方と一緒に鑑賞しながら、何を思い、気づき、感銘を受けたのかを自由に語っていただく「Cinema × Sustainable」。第3回目となる今回は、⼈と⾃然が共⽣する社会の実現を⽬指す「SANU」の本間貴裕さんをお迎えして、映画『リトル・フォレスト 夏/秋』についてお話を伺いました。

本間さんにとっての“サステナブル”とは

本間:「SANU」では、自然の中にもうひとつ家を持つ「セカンドホーム・サブスクリプションサービス」を運営しています。現在9拠点53棟が稼働しているのですが、我々の事業を継続するには自然との共生が欠かせません。どこの土地にも植物や虫、動物などが住んでいますから、あくまで人間はそこに“お邪魔している身”ということを忘れてはいけないなと。もちろん、キャビンを建てるときには国産木材を使って、使った分だけ植樹することで、CO2の総量をむしろマイナスにしていくとか、環境に配慮している点を挙げればたくさんあるのですが、何よりも大切なのは自然をリスペクトすること。

今や当たり前になったサステナブルというワードも、人間がコントロールして自然を守ってあげるとか、守らなければならない、みたいな考え方をするのはおこがましいと思っています。地球ってすごく大きいし、何億年という長いスパンの中でたまたま一種族の人間が増えてしまっているだけの話なので。

そもそもSDGsとかサステナブルって、別に崇高なことを言っているわけじゃなくて、単純に人間ばかりが調子に乗らない、とか地球にリスペクトを持つ、みたいな意外とシンプルな話だと思うんですよね。そして、その先にエネルギーの話や資源の問題があると。

▶︎作品あらすじ

『リトル・フォレスト 夏/秋』©「リトル・フォレスト」製作委員会

舞台は東北のとある寒村にある小さな集落。自然と向き合いながら自給自足の田舎暮らしを送る主人公・いち子が、日々の食事と真正面から向き合うことで自分の人生を見つめ直す姿を、四季の移ろいとともに1年にわたって追ったスローフード・ムービー。米サワー、ゴムの実のジャム、くるみごはんなど、フードクリエイティブチームeatripが手掛けるシズル感あふれる料理の数々も印象的。「夏/秋」編と「冬/春」編の2部作。

監督・脚本:森 淳一
原作:五十嵐 大介「リトル・フォレスト」(講談社「アフタヌーン」所載)
出演:橋本 愛、三浦貴大、松岡茉優、温水洋一、桐島かれん
2014/日本/111分/配給:松竹メディア事業部/フードディレクション:eatrip/音楽:宮内優里/主題歌:FLOWER FLOWER「夏」「秋」(grB!records)
各配信サイトにて配信中 https://www.shochiku.co.jp
配給:松竹メディア事業部

自然の営みの中でたくましく生きる主人公・いち子の姿が美しい

―作中で特に印象的だったのはどんなシーンですか?

本間:全編を通して頻繁に出てくる料理のシーンですね。一番惹かれたのは畑から採ってきたゼンマイに灰をまぶしてアク抜きをして、そのまま茹でただけの料理かな。いわゆる手の込んだ料理じゃないけれど、とても美味しそうでした。灰を使ってアク抜きをするっていうのも田舎らしいアイデアですごくいいなって。

もうひとつ印象的だったのは、映画の序盤でいち子の友人のユウ太が「人が殺したものに対して、殺し方に文句をつけるような人間にはなりたくないし、誰かが作ったものを横流しするだけで生きていきたくない。だから僕は田舎に戻ってきた」と語るシーン。ここがいわばこの映画のクライマックスだなと思いましたし、「生きる」ということの本質を感じました。

―作中では田舎の生活と都市部の生活が対比的に描かれていますが、それぞれの生活についてどう思われましたか?

本間:僕は福島県の会津若松出身で、さらに祖母の家は猪苗代という豪雪地帯の農家の古い家だったので、子どもの頃のことをすごく思い出しました。小学校時代も中学校時代も、時間があれば近くの湖とか沼までママチャリで行って釣りをしたり、冬になるとスキー場に行って遊んだり。自分のそばに常に自然があるのが普通のことでしたが、東京に出てきて、それがいかに特別なことだったのか実感しました。

反対に都会は、まずは良い音で音楽が聴けるし、大きなクリーンで映画が観られて、美味しいお酒やご飯が楽しめる。これはもう、本当に都会の良さだと思います。もう一つは、ゆるしがあることだと思っていて。

ゆるしとは、どういうことでしょうか?

本間:都会って実はゆるいんですよね。なぜなら、生きていけるから。別に寒波が来たって、台風がきたって、隣の人と喧嘩しようが会社を辞めようが、代替するものがいくらでもあるので。人間関係のシビアさで言ったら、絶対的に田舎暮らしの方がシビアなわけですよ。自然が荒れれば自分たちの生活も荒れる。それはもうダイレクトに繋がっています。作中でも、厳しい冬を迎える前に塩漬けのワラビや凍み大根、干し柿などの保存食を作って備えることで生き抜いていくんです。

別にどちらの方がより良いと言うつもりはなくて、リスクという単語の意味するものが違うだけなんですよね。田舎のリスクは寒さで凍えてしまうかもしれないし、ご飯が食べられないかもしれない、熊に会ったら危険かもしれない、というようなフィジカルリスク。反対に、都会のリスクは人間関係とか社会関係上のリスクで、いわゆるメンタルリスク。実は田舎と都会では生きる指針が全然違うというか。ただ、都会の生活があることで田舎での自然の美しさが、美しさたりうるものになるから、ここは相互に補完し合っていると思うんです。

「ただいま!」と帰れるもうひとつの我が家を作りたい


―そんな田舎暮らしと都会暮らしの両方を楽しみたい人たちに向けたサブスクリプションサービスが、本間さんが手掛けられている「SANU 2nd Home」ですね。

本間:そうですね。今までは数千万円の別荘を買えるような一部の人しかできなかったことを、誰にでもできるようにしたいという想いからスタートしました。たとえば、田舎に実家がある人だったら、都会でしんどいことがあったら「あ、実家帰ろう!」って思いますよね。そういった自分にとってのセーフティーネットじゃないですけど、“帰れる場所”があるというのはすごく心強いこと。

だから、山の中に家をひとつ持つだけで仕事をしている自分に自信が持てたり、恐れずに何か挑戦できるようになるかもしれない。モラトリアム期間でどちらも味見してどちらかに決めようっていう提案では決してなくて、都会と田舎を行き来することで自分らしくいられるようになれるのでは? と考えています。


―都会暮らしも田舎暮らし、どちらも“日常”にしていくということですね。

本間:はい。今まで僕らが考えていた旅行って、都会でストレスを溜めてしんどくなったときに非日常の体験をして、お金を使って、贅沢して、刺激を受けて「さあ、また日常を頑張ろう!」っていう感じでしたよね。でも結局、旅行が終わって戻っていく日常は何も変わっていないんですよ。


―そうですね。旅行で楽しかった分、日常に戻ったときに憂鬱になってしまいますよね。

本間:そうそう。それはもう、夏休みが終わった小学生さながら(笑)。そこで、僕たちが提案したいのは、自然と都市に繰り返し通い、自然の中で営むライフスタイル。日常生活の中に森の静寂や気持ちいい風を感じる瞬間をプラスすることが、生活の質をより良くしてくれると考えています。

人間は本来お腹が空いたら食べて、眠くなったら眠る生活が基本なので、自然の中に身を置くことで都会にはない暇や寂しさを感じてほしいんです。田舎暮らしの方がいいとか、都会暮らしの方がプラスだよね、と相対的に考えるのではなく、どちらもいいよね! っていう感覚を大事にしたいですね。

“大自然を前にするとちっぽけで無力な自分”も新鮮


本間:僕が目指している暮らし方にはいくつかポイントがあるのですが、「人間社会の中で活躍する」「地球の美しさに気付き続ける」というその2本柱を両立していきたいということです。いわば、それが自分の中での基礎なので、どちらかだけでは満足しないと思いますね。まだ年齢も若いし、ご隠居みたいに暮らすのは面白くないなと思っていて。仕事をすることってつまり自分の頭や体を動かすことで、誰かに「ありがとう!」って言ってもらうことで、それはやっぱり嬉しいことだから続けていきたいですし。

一方で、そればかりやっていて地球の美しさに気づくことができないのはとても寂しいこと。東京のまわりにある海や山、アラスカの氷河やパタゴニアの山々とか、圧倒的な自然にもっと触れていきたいですね。縛られずにどちらもやってみるっていうのが、現代社会に生きる我々が獲得している自由だと思うので、「大自然の前ではちっぽけで無力な自分」と「人間社会の中で活躍する自分」のどちらも大切したい。これからも僕が生み出したものに対して「ありがとう!」と言ってもらえるように。



Editor’s note

「自然と向き合うことは、自分自身と向き合うこと」。自分で育てた稲や野菜、野山で採れた自然の恵みを食べることで、明日への活力を充電していく主人公のいち子。恵みを与えてくれる一方で、ときには厳しい一面も見せる自然と真正面から向き合い料理を作り続ける彼女には“生きる力”がみなぎっていて、そのひたむきな姿に引き込まれます。都会で暮らしているとどうしても、人と人、人と社会との関係ばかりに目がいきがちですが、自然や動物など、人間以外のものの魅力に気づき尊重することがサステナブルのスタート地点なのだと教えられた気がしました。そして、自分の中に新たな目標が生まれた瞬間でもありました。特別ではないありふれた日常をしっかりと生き、あるがままの景色とありのままの自分を見つめること。そして、当たり前のことに感謝しながら毎日を過ごしていきたいと。

PROFILE

本間貴裕

「SANU(サヌ)」ファウンダー兼ブランドディレクター。現在セカンドホーム・サブスクリプションサービスを運営。Backpackers’ Japan元代表取締役。2010年にゲストハウス、ホステルを運営するBackpackers’ Japanを創業。古民家を改装したゲストハウス「toco.」をはじめ、「Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE」「Len」「CITAN」「K5」をプロデュース、運営。1986年、福島県会津若松市出身。サーフィンとスノーボードがライフワーク。

STAFF CREDIT
photographer:Sayuri Murooka(SIGNO) editor & writer:Akiko Maeda editorial direction:Mo-Green Co.,Ltd.