BOTANIST Journal 植物と共に生きる。

BOTANIST journal

LIFESTYLE 23

牧野富太郎博士の業績に触れる高知県立牧野植物園。

「日本の植物分類学の父」と称される植物学者・牧野富太郎博士。そんな博士の業績に誰でも身近に触れられるのが、高知市内にある高知県立牧野植物園です。ここには、一般的な植物園とは異なる特徴や見どころがたくさんあるのだとか。同園の橋本さんに詳しく伺いました。

高知が生んだ植物学者・牧野博士をたたえて。

1958(昭和33)年、高知市の五台山に開園した高知県立牧野植物園。高知は「日本の植物分類学の父」と呼ばれる植物学者・牧野富太郎博士の故郷であり、博士の功績を広く世間に伝えるためにつくられました。「個人の業績を顕彰し、人名を冠している植物園というのは世界的に見てもほぼ例のない珍しいことなんですよ」と橋本さんは話します。

牧野博士自らの構想によるものではなく、地元の方々が計画して実現させた同園。とはいえ、当初いくつかあった候補地の中からここが良いとアドバイスしたのは牧野博士なのだとか。「五台山には豊かな自然生態系が築かれており、牧野博士自身も何度も植物調査に訪れていた場所であるため、ひときわ魅力的に感じられたのではないでしょうか」と橋本さん。残念ながら牧野博士は同園が開園する前年に亡くなってしまいましたが、きっと完成を誰よりも楽しみにされていたであろうことがうかがえます。

広大な山を散策するように、博士ゆかりの植物に出合う。

同園の広さは約8ヘクタール。広大な園内には3,000種類以上の植物を植栽しており、牧野博士ゆかりの植物をはじめ、牧野博士を育んだ地元高知の野生植物が四季を彩っています。橋本さん曰く、「元々当園ができる以前からここ五台山に生育していた、野生の植物をそのまま生かしている部分も多くあります」。

また、同園は起伏に富んだ五台山の地形を生かしてつくられており、自然環境に近い状態でのびのびと育つ植物を見ることができるのも魅力。「園内には平地はほとんどなく、まるで山歩きをしているような感覚に陥るはず。自由に散策しながら、豊かな自然の中に自分がいるのだということを体感できる植物園となっています」。

さらに自然の景観を損なわぬよう、人工物はなるべく減らし、どうしても必要なものは極力目立たない色味にするなどデザインを工夫して設置しているそう。こだわって守り抜かれた環境だからこそ、大自然に抱かれたかのような心地良い体験ができるのです。

想いを未来へ、教育普及・研究施設としても機能。


同園は総合植物園であり、憩いの場としてだけではなく、牧野博士の想いを受け継いだ教育普及の拠点としても機能。その一環として特徴的なのが、園内で見られる植物に付けられたラベルです。植物の和名だけではなく、学名、科名、詳しい解説文が記されており、一つひとつの植物とじっくり向き合い、その特徴を知ることができます。橋本さんも「植物図鑑を思わせる詳細なラベルは当園ならでは。目の前の植物がどういったものなのか、しっかりと学んでいただけます」と話します。

また、同園にて牧野博士が収集した標本、描いた植物図、蔵書などを保管・管理。博士の業績を引き続き顕彰し、長く残していく役割も担っています。例えば、園内にある博物館相当施設「牧野富太郎記念館」では、さまざまな展示物を通して牧野博士の業績を詳しく紹介。その生涯について余すところなく知ることができるのも、同園を訪れる楽しみの一つです。

一方、同園には多くの研究者が所属する、研究施設としての顔も。高知の野生植物の調査、収集、保全に取り組むほか、薬用資源植物の応用研究などが進められています。「さらに2023年5月には、園内に新しい研究棟がオープン予定。研究室や実験室などを配置し、その一部は通路から見学が可能です。また、研究内容の展示スペースや、子どもたちが植物に親しみ、楽しく学べるキッズラボも設置します」と橋本さん。開かれた研究施設の誕生で、より教育普及や研究の拠点としての存在感が高まりそうです。

春らんまん、見ごろの植物。


多彩な魅力を持つ同植物園。最後に、今の時期に見ごろの植物について橋本さんに聞いたところ「やはり、王道ですがサクラとツツジの仲間は外せないですね」とのこと。

牧野博士は桜が好きだったことから、園内には約40種類の桜の仲間が生育しています。多くの品種が花盛りを迎えるのは4月ですが、最も早咲きの園芸品種が開花する12月中旬頃から、最も遅咲きの園芸品種が開花する5月上旬頃まで、いつ訪れてもいずれかの桜の仲間が美しく咲き乱れる風景を楽しめるといいます。

そして、ヤマザクラなどのそばには、牧野博士が残した植物図を掲示。実際の植物の様子と見比べることで、博士がどれほど正確に、繊細に植物を描いていたのかを目の当たりにすることができるのも、同園ならではのお花見スタイルといえます。

また、ツツジの仲間は60種類以上が生育し、その色や形はさまざま。個性豊かな表情の違いを存分に楽しめます。


牧野博士の功績をたたえ、その想いを未来へとつなぐ同園。豊かな自然に包まれ、たくさんの植物と出合い、学びを深める感動体験を求めて、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。