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Cinema×Sustainable #2「SDGs的な気づきを得られる映画3本」

サステナブルをテーマに映画作品をセレクトする「Cinema×Sustainable」企画。第2回は公園や無人島、森の中などオープンエアの空間で映画上映イベントを開催するkino iglu(キノ・イグルー)の代表・有坂塁さんに、SDGs的な気づきのある映画3本をご紹介いただきました。

映画を通じて考えるSDGsのこと

毎日映画館で映画を見ること(試写会ではなく)、毎朝目覚めた時に思いついた映画をインスタグラムで紹介する「ねおきシネマ」を投稿することを日課にしている有坂さん。1時間のヒアリングからおすすめの映画3本を教えてくれる「あなたのために映画をえらびます」といった取り組みも行っています。映画が暮らしの一部であり生業になっている有坂さんですが、映画とSDGsについてどんな風に考えているのでしょうか?

「気候変動や環境問題を直接的に取り上げたドキュメンタリーも多くありますが、そうでなくても映画の主人公はマイノリティや貧困など何か問題を抱えていて、自分と向き合って成長する過程でドラマが生まれています。もっと大きな国の経済が描かれることもありますし、そういう意味ではSDGsと関連する映画が実はたくさんあると思っています」

そう言った映画に対し、好き嫌いだけで判断するのではなく、作品の中にどっぷり浸かり、その中にあるメッセージを見つけることを楽しむ鑑賞方法もあるといいます。

「もちろん好きな俳優や監督で映画を選ぶのも楽しみのひとつですが、自分の感覚だけで見るには映画は豊かすぎます。好きか嫌いか判断するだけでなく映画に込められているメッセージが何かを意識しながら作品を見れば必ずおもしろいと思えるところがあります。例えばSDGsなら自分がSDGsの視点を持って映画を見ると、必ずその要素を発見できるはず。つまらないと目をつぶってしまうのと、自分でメッセージをつかみにいく姿勢とでは観賞後の未來が大きく変わります。

「そうやって映画を見ると、SDGsを自分ごととして考えやすくなります。義務感で取り組もうとしても好きや楽しい感覚がないとサステナブルにならなりません。好きなことがわからないという方は、SDGsの前に自分と向き合って好きを追求したほうが、継続しやすくなると思います。映画が好きな方は、普段見ないジャンルの映画を週に1本は見ると決めるなど、新たな気づきが得られる習慣を取り入れてみるのもおすすめ。どんな世界も、自分のフィルターをとっぱらうことで見えてくるものがあります」

SDGs的な気づきを得られる映画3本

『フロリダプロジェクト 真夏の魔法』

フロリダのウォルト・ディズニー・ワールドのすぐ隣にある、荒廃した町が舞台になっています。1971年の建設当時はディズニー・ワールドの恩恵を受けて栄えていましたが、現在はホームレスや貧困のシングルマザーがその日暮らしの生活を送り、安モーテルの宿泊費を払うのも難儀する状況。そういった現実を横目に、子どもたちはディズニー・ワールドの中ではなく町の中を遊び場に、冒険に満ちた楽しい毎日を過ごしている。

「映画のビジュアルからもわかりますが、町の雰囲気はポップなイメージで、モーテルのパステルカラーの壁などビジュアルだけ見たら、ファンタジーなキッズムービーに見えます。映像も美しく、この町に行ってみたいと思えるような見せ方をしています。でも実際は、施設の開業からバブルを経て施設の裏にあるその町はすっかり荒廃している。そのどんよりした空気感とカラフルな町並みのギャップが、アメリカの貧困問題をよく表していると思います。ちなみに『フロリダ・プロジェクト』という名称は、ディズニー・ワールド構想の初期のプロジェクト名です」

「SDGsや社会問題は、知識として取り入れても自分の心が動かないと、アクションにはつながらないと思っています。この映画はひとつの映画作品として非常に魅力的で、最初は映像の美しさに感動してワクワクし、見終わったあとはリアルな現実が迫ってくる。監督のショーン・ベイカーはそういう世界観をつくりたかったんだと思います」

https://filmarks.com/movies/75190

『リトル・ガール』

フランス北部に住む、7歳のトランスジェンダー・サシャのドキュメンタリー。自分は女の子であると訴えるサシャと、サシャを支える両親は学校に彼女の個性を受け入れてもらえるよう働きかけるが、学校でスカートをはくことは認められず、社会は他の女の子と同じようには扱わない。家族の献身と、サシャ本人の純粋で強い意志が見る者の心を震わせる。

「トランスジェンダーを主人公にした映画はありますが、その多くが恋愛の葛藤や家族の理解を得られず悩み苦しむといった、大人になってからの姿が描かれています。監督のセバスチャン・リフシッツは以前『バンビ』という映画でやはりトランスジェンダーのドキュメンタリーを作っていて、そのときにトランスジェンダーは大人になってからだけではなく幼少期から悩んでいることを知り、その人たちにもカメラを向けたいと思ったそう」

「あるシーンで、大人と話をしているサシャが涙を流すシーンがあります。それが“ウワーン”と感情を爆発させる泣き方ではなく、頑張ってこらえているんだけどどうしても涙があふれてしまったというもので。もしかしたら自分の周りにも性に違和感のある子がいるかもしれないけど、サシャと同じ目に合わせたくないと心から思える涙でした。子を持つ親だけでなく、全人類に見てもらいたい映画です」

https://filmarks.com/movies/89426

『希望のかなた』

青年カーリドは内戦が激化する故郷シリアを逃れ、生き別れた妹を探してフィンランドのヘルシンキに流れつく。ヨーロッパでは難民危機のあおりもあってか、ヘルシンキでも暴力や差別にさらされるカーリドだったが、レストランオーナーのヴィクストロムは彼に救いの手を差しのべ、レストランに雇い入れる。そこで出会った人々と物語が展開されていく。

https://filmarks.com/movies/74564

「監督のアキ・カウリスマキは多くの作品をつくっていますが、もともと作中で暴力シーンを映さない人でした。そういうシーンがあっても音で表現するなど直接的に描写していませんでしたが、この映画には主人公のカーリドとレストランオーナーが殴り合うシーンがあります。それは、ヨーロッパでは難民問題がより身近に迫ってきていることを暗に示しているのかなと思います。でもオーナーは、ひと通り殴り合いが終わったらご飯を食べさせて雇い入れてあげる優しさをもっています。ただその優しさの向こうにはシリアスなメッセージがあったりもします。作風が少しずつ変化していると同時に、彼独特のユーモアはまったく失われていません。親日派でもあるので途中で現地の“とんでも”なお寿司屋さんが登場するなど、日本人が見た方がユーモアを強く感じられます」

「難民問題はネガティブな部分もありますが、彼らも難民になりたくてなっているわけではないし、難民の人たちと一緒にできることがあるかもしれない。日本ではまだそんなに身近ではありませんが、今後よりリアルになっていく問題です。一度こういった映画を見て、難民について少し考えておくだけでも当事者になったときにその対応が変わってくるのではないでしょうか」

これまで好き嫌いや、世の中の評判で鑑賞する映画をセレクトしていた自分にとって、「自分の感覚だけで見るには映画は豊かすぎる」という有坂さんの言葉は衝撃でした。時代や社会を反映する映画は、まだそれほど日本では身近ではないSDGsの問題についても発見や気づきを与えてくれます。まずは「ひとりSDGs映画月間」と銘打って、紹介いただいた3本を鑑賞してみたいと思います。

PROFILE

有坂塁

2003年に移動映画館「キノ・イグルー」を渡辺順也とともにスタート。美術館やカフェ、遊園地等さまざまな場所で映画上映界を開催。1対1のカウンセリングでその人におすすめの映画3本を導き出してくれる「あなたのために映画をえらびます」を定期的に行う等、映画の楽しみ方を広げてくれるイベントを開催し、映画の魅力を伝える。

PROFILE

Stranger(ストレンジャー)

東京都墨田区菊川の映画館。「映画を知る」「映画を観る」「映画を論じる」「映画を語り合う」「映画で繋がる」という5つの体験を一連の映画鑑賞体験として提供する新しいスタイルをめざして開館。カフェにもこだわり、東京の東エリアから新しい映画文化を発信。

(クレジット)
photographer:Wakana Ohno editor&writer:Akiko Yamamoto editorial direction:Mo-Green Co.,Ltd.