心が動く方へ、軽やかに。積み重ねてきた「好き」がつくった私らしい今

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心が動く方へ、軽やかに。積み重ねてきた「好き」がつくった私らしい今

2026.01.19

「BOTANIST」は10周年を迎え、「答えはきっと自然の中にある。」という新たなメッセージを掲げました。どんな環境でも力強く芽吹く植物のように、忙しない日々のなかでも自然体で自分らしく生きる人たちを応援しています。

ナチュラルに、等身大で生きる――言葉にすると簡単ですが、周囲の目を気にして、自分の感覚を後回しにしてしまうことは少なくありません。そんな時代に、自分の心の声に従って、しなやかに日々を楽しんでいる人がいます。

ファッションディレクター・野尻美穂さん。
セレクトショップ「SHIPS」で展開されるレーベル「Wai+(ワイ)」のディレクション、自身のブランド「ence(エンシー)」の運営など、多岐にわたる活動で注目を集める存在です。自分の「好き」にまっすぐ向き合い、道を軽やかに切り開いてきた野尻さんに、お話をうかがいました。

心からいいと思えるものをつくる。ブランド「ence」に込める思い

「今日は、よろしくお願いします」

都内のスタジオに柔らかな笑顔で現れた野尻さん。

ブラウンのジャケットにブラックのトップス。アイテム同士のレイヤードや合わせるジュエリーなど細部にまでセンスが溢れていて、思わず「どこで買えるんですか?!」と聞いてしまいました。

野尻さんは、セレクトショップのプレスを経て現在はフリーランスのファッションディレクターとして活動中。現在はSHIPSにて展開する「Wai+」ディレクターをはじめ、さまざまなブランドとの協業を手掛け、2025年1月には自身のブランド「ence(エンシー)」を立ち上げました。

「enceではアパレル、小物、ジュエリー、トートバッグ、子ども服などを展開しています。ブランド名は、英単語の語尾につくenceから取りました」

「experience(経験)」「innocence(無垢)」「incense(香り)」――野尻さん自身が大切に思う言葉の語尾から、enceという名を付けています。

ence webサイト(https://www.ence.jp/)より

野尻さんはenceで「自分がずっと好きで着たいもの、身に付けたいと思えるもの」だけを商品にしているそう。

「以前は、買い物に行くと可愛ければいいと、デザインだけでアイテムを選ぶことも多かったんです。でも、年齢を重ねると同時に肌が敏感になってきて。化学繊維で痒くなったり、カシミヤでも赤くかぶれたり。可愛いだけじゃだめだと感じる瞬間が増えました」

その感覚は、お子さんが産まれてからより鮮明になったといいます。

「娘は、洋服に付いている商品タグが肌に当たるだけで『痛い』と言って、もうその服を着てくれなくなったりするんです。もっと着心地が良くて長く大切にしたくなるような、シンプルで上質なアイテムに出会いたい――その思いが、enceの原点です」

素材へのこだわりは「一緒に作っている皆さんを困らせているかもしれない」というほど。ストイックに、理想を追求しています。

「素材はこれで良いのか、色はどうするか……企画だけでなく、生産や在庫管理まで自分で担うので大変なことも多いです。それでもしんどいとは思いません。ファッションが本当に大好きだから、幸せな仕事をさせてもらっているなと感じています」

相手に興味を持つ人懐っこさが、扉を開いた

そんな野尻さんの「ファッション好き」の原点はどこにあるのでしょうか。

「母の影響が大きいと思います。『COMME des GARÇONS』『ISSEY MIYAKE』『Y’s』など、モード系の洋服をよく着ていて。子どもの頃は、母のクローゼットを開けて眺めるのが密かな楽しみでした。服の世界ってこんなに幅があるんだと知る入口でしたね」

そこからファッション業界へ。最初の舞台が、アルバイト先に選んだ「SHIPS」渋谷店でした。

「働き始めてすぐに『接客っておもしろいな』と感じました。お客様と話しながら似合うものを考える時間が楽しくて。提案がぴったりハマって購入してもらえると、本当にうれしかったです」

接客で経験を積むうちに、「プレス」という仕事にも興味を持つようになります。

「最初はプレスって何をする仕事なのかよく分からなかったんです。でも、取材を受けるプレスの方を見たりしているうちに、『なんだかかっこいい仕事だな』と思うようになりました」

憧れを掴んだ野尻さんはSHIPSのプレスとして約4年間、ブランドの顔として走り続けました。

「世に出る機会をたくさんいただき、本当に楽しかった。会社にいるからこそできる貴重な経験をさせてもらいました。ただその反面、会社だからこその制約もあって。もっと自分の言葉で話したい、自分を知ってもらいたいという気持ちが日に日に大きくなり、フリーランスという道に挑戦してみることにしたんです」

こうして2016年4月に独立。周囲にロールモデルがいたわけではなく、手探りのまま動いたといいます。

「本当に先が何も見えていない状態でした。でもありがたいことに、会社員時代のご縁からすぐに仕事をいただけたんです。過去に雑誌で一緒に仕事をした映画監督からの、キャスティングの依頼でした。想像以上に大変な仕事でしたが、とても特別な経験になりました」

ブランイリスと enceのコラボレーションから生まれたキーチェーンブレスレット

その後、次の大きな転機が2017年に訪れます。ナノ・ユニバースとのコラボレーション案件の声がかかったのです。

「SHIPS時代に親交のあった方から、いきなり電話がきて今何してるの? って(笑)。そこからコラボしない? という話につながって、『Champion』『Wrangler』とのトリプルコラボが実現しました。自分にとって、コラボ仕事の先駆けとなった案件です」

以降、活躍の幅はどんどん広がっていきました。

過去に関わった人たちから声がかかるのは、きっと、野尻さんが一つひとつのご縁を丁寧に育ててきたからこそ。人と向き合うときにどんなことを大切にしているのか尋ねると、野尻さんはふっと笑顔を見せました。

「私、人にすごく興味をもつタイプなんです。もちろん相手の様子を見ながら加減をしますが、性格的にそういう、心の距離が近い感じが好きなんですよね。気づけば仲良くなって、ずっとしゃべってる(笑)。だからこそ、言葉は丁寧に選ぶようにしています。相手への尊敬だけは、どんなときも手放したくない――その感覚を心のいつも真ん中に置いておきたいんです」

仕事も子育ても、ひとつながりの“オン”

独立して約10年。今では野尻さんのコーディネートを真似したり、お揃いのアイテムを買ったりするファンも大勢います。

人から愛され続けるセンスを磨くために、何か特別な「インプット」をしているのでしょうか。

「正直、子どもが生まれてからはインプットの時間は確実に減りました。どちらかというと子どもを優先したいタイプなので、おしゃれな場所より娘が楽しめる場所が優先。昔はよく一人であちこちに出かけてインプットをしていたけれど、今はそういうわけにはいかない……。その分、SNSなどでの情報収集は意識的に続けています。家にいながら世界中のスタイルや空気感に触れられるのは本当にありがたいですね。

とはいえ、インターネットに頼ってばかりではいけないので、家族と相談し『年に一回は一人で海外旅行をする』という決まりをつくりました。そこで、一点集中で現地のインプットをするようにしています」

手元にアクセントを加えてくれるボリューム感たっぷりのモヘグローブ。カラーバリエーションにとても悩まれたのだそう

忙しい合間を縫うように、インプットを欠かさない日々。エネルギッシュな野尻さんに「子育てと仕事の両立は大変では?」と尋ねると、野尻さんは明るい声で答えます。

「両立という言葉は、あまりしっくりこないかもしれません。私には切り替えポイントがあまりないんです。仕事も子育ても家事もやることが違うだけで、自分の中ではずっと同じオン。シーンだけがスライドしていくような感覚なんですよね。というよりもオンオフという意識をあまり持たないようにしているのかも。

むしろ『ここから仕事』『ここから家庭』と区切ってしまうほうが、心理的に負担が増えてしまいそうで。好きなことをどちらもやれている生活なんだと思うようにしています」

自分のためにも、家族のためにも、ポジティブな自分をキープしている野尻さん。とはいえ落ち込む日もあるそうで。

「仕事への責任感から、つい力が入りすぎてしまうことはありますよ。そんなときは自分で自分を甘やかすようにしています。 趣味でもある買い物をしたり、主人にも積極的に頼っています。何もしたくないからごはん作ってとお願いしたりとか(笑)。自分へのプレッシャーを少しずつ減らす心がけをしています」

好きな香りに包まれて。心の呼吸がふっと整う小さなルーティン

そんな野尻さんには、自分をゆるめる大切なルーティンがあります。それが、毎日のお風呂時間です。

「お風呂は、自分を一番開放できる場所。湯船にしっかり浸かって、娘と一緒に束の間の時間を楽しみます」

「香りはすごく意識しますね。香りが好きだとそれだけで落ち着くし癒される。逆に好みじゃないと、空気感ごと苦手に感じてしまうこともあって。だから、お風呂に置くものはリラックスできる香りのものを揃えています」

今回は、BOTANISTの「SANTAL(サンタル)リペア オイルイン シャンプー/トリートメント」を使っていただきました。

「パロサントとサンダルウッド、ローズウッドの香りが、とても好みでした。個人的な印象としては、お花屋さんっぽいイメージ。枝や花から立ち上る濃密な生命力を感じられました。

私は、お香やキャンドルの煙が少し苦手で。でも香りそのものは大好きなので、こうして煙ではなく身にまとえるアイテムがあるとうれしいです!子どもにも使いやすいし、男性でも嫌味なく使える。実際に夫も気に入っているようで、勝手に使われています(笑)」

同シリーズの「SANTAL(サンタル)リペア ヘアオイル」はどうでしょう?

「私は、髪が細いのでオイルが欠かせません。このオイルは、シャンプーと香りが同じでケンカしないから、取り入れやすいです」

好きな香りをまとって、ほっと一息つく。そんな毎晩の復活タイムがあるからこそ、野尻さんはずっとオンで「好き」を追い続けられるのかもしれません。

これからも飾らず軽やかに、自分らしい道を描けたら

野尻さんの活動は、ファッションの枠を超えて広がっています。

「enceではファッションアイテムだけでなく、オリジナルのハーブティーも販売しています。(現在完売)今回は山梨の『ハーブスタンド』さんにブレンドをお願いしました。また最近では、BEAMSさんと一緒に『MILK TEA SERVICE』というミルクティー専門店にも関わらせてもらっています。空間づくりからメニュー開発、ビジュアルディレクションまで担当していて、すごくおもしろいです」
飲食は未知の領域。けれど、野尻さんの根っこにある軸は変わりません。

「ハーブティーもミルクティーも、やっていること自体はファッションとは全然違います。でも、『自分が本当に感動したものを届けたい』『その良さをまっすぐ伝えたい』という軸はどの仕事にも共通していて。

今の時代、ものを選ぶときにみんな丁寧に口コミを読みますよね。だから、自分が関わる商品については、私自身が信頼できる口コミの発信者でありたいんです。『これ、本当にいいよ』と胸を張って言えるように、自分の感覚でちゃんと納得してから届ける。そんな存在でいたいし、どんな仕事でもその役割を担えたらうれしいなと思っています」

パッケージもかわいいMILK TEA SERVICEのミルクティー

これからも、自分の「好き」の感覚をまっすぐに信じ、自然体のまま歩いていきます。

「意識して自然体でいようとしているというよりは、単に飾れない性格なだけかもしれませんが(笑)。頑張って取り繕っても、すぐボロが出るので。だったら最初から自然体でいたほうが、自分も周りも楽だなと思っていて。だからこそ、覚悟を決めて自分の好きに正直になれるのかも。今の仕事も、新しい挑戦も、自分のペースで長く楽しみ続けられたら、こんなに幸せなことはないですね」

nstagram:@miho_cocoa


撮影:芝山健太
取材・執筆:安岡晴香
編集:安岡倫子(株式会社ツドイ)