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育つ土地と風土によって変異していく植物の力
佐竹さんは、長きに渡り厚生省が定める日本薬局方の制作に尽力されてきた先生です。薬として、植物から抽出された成分がどれだけの量入っているべきかといった、日本の薬の規定を制定してこられた先生です。そんな佐竹さんに、植物に興味を持たれたきっかけを尋ねると「大学で『植物のことならなんでもわかる』とおしゃっていた先生と出会いまして。それならばと、私が『この植物は知ってますか?』と日々植物について質問をしていくうちに、植物の魅力に惹かれていきました。その後、日本全国の山々を歩き回っていました。その先生の博識に憧れる一方、先生が苦手だったシダ植物について私が勉強していこう決意しました。シダ植物の面白いところは、例えば、ナガサキシダとナガサキシダモドキという、とても似ているのですが、育つ土地と風土によって変異している植物の例をたくさん知り、とても驚かされました。自然がこんなにも変異するということに驚き、より植物の魅力に惹かれていきました。」
植物から得られる偉大な力を、薬として使用するための規格作り
植物がその土地の環境に順応するために、形を変え、生きていく力を自らで身につける。そんな、植物の生きる力に惹かれていった佐竹さんは、大学を卒業後、国立衛生試験所に就職され、厚生省が定める日本薬局方の作成に尽力をされたそうです。「植物から抽出された成分で、薬効のある成分はどれくらい入っているのか、また、毒の成分はどれくらいあるのか、といった薬の規格を作成する仕事を、40年くらいやってきました。そのなかで、世界で5人ほどしか任命されていないWHOのコンサルタントとして、世界の薬に対するガイドラインの作成などにも携わってきました。また、1990年代に入ると健康食品が世界に出回りはじめたことで、食薬区分の詳細な規格が必要になり、改正に携わりました。このような仕事を通じて、より多くの植物に触れる機会を得ることができました。」
植物には、人を壊してしまうほどの力がある
佐竹先生が植物の力を薬として使用するガイドラインの作成に尽力されてきた中で、植物の恐ろしい力とも向き合ってこられました。「現在、ブシは漢方薬として重要視されていますが、トリカブトの側根を乾燥させたものです。トリカブトといえば人を殺めてしまうほどの猛毒がありますが、それがある条件、熱加工すると化合物が変わって毒成分が弱まるのですが、その毒性がどれほどまで弱まり、薬として使えるのかといった規格を作成してきました。同様に、ケシなどについても規格検討してきました。ケシからつくられる原料には、モルヒネが含まれています。モルヒネは主に末期癌患者の痛み止めとしてなくてはならないものです。同時にコデインも入っていて、これは咳止めにとても有効な成分です。薬は上手に使うことで人に効能があるものとなります。」
植物であれば、どんな植物でも全て機能性がある。
植物が持つ毒が、ある変化を起こすと薬となる。植物の力が私たちに充分すぎるほど機能するなんとも不思議なお話ですよね。「この植物の成分が、こんな機能性があるとよく言われますが、私はそれだけではないと思っています。以前、血圧を下げると言われていた化合物が入ったカギカズラ(チョウトウコウ)という他の生薬と合わせて、七物降下湯を作り、動物実験をしたことがあります。ところが、血圧は全く下がらず、その動物は、長生きをしました。血圧が高い動物は脳の血管系が壊れて死んでしまうので短命なのですが、その部分が全く壊れず綺麗なままで長生きしたことがわかりました。これは抗酸化作用の流れだと思うのですが、処方した植物性の成分を継続的に飲むと、予想だにしない機能が生まれるということだと思います。つまり、幅広く体全体を治すことが、本当の意味での機能性なのではないかと思います。したがって植物であれば、どんな植物でも全て機能性がある。というのが現在の私の考え方です。」
植物は機能する。植物は間違いなく私たちに大きな力をもたらしてくれます。ただ、まだまだ解明されていない植物の力は多々あるかと思います。植物とともに暮らすなかで、私たちは気づかぬうちに、様々な不思議な力を得ているのかもしれません。
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佐竹元吉
東京薬科大学を卒業後、国立医薬品食品衛生研究所生薬部長を経て、お茶の水女子大学生活環境研究センター教授となる。代表的な著書に『第17改正 日本薬局方の解説書』(共著・廣川書店) にあるように、日本薬局方の作成に40年以上従事してきた経歴を持つ。
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