BOTANIST Journal 植物と共に生きる。

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PEOPLE 27

人と付き合うように、好き嫌いがあっていい。プラントハンター西畠清順と植物の素朴な関係

「プラントハンター」という言葉を一躍有名にした人がいます。テレビなどメディアでも取り上げられることの多い、西畠清順(にしはたせいじゅん)さんです。 植物の仕入れやランドスケープデザイン、造園工事などを行う「そら植物園」の代表として、多忙な毎日を過ごす西畠さん。朝起きた瞬間から1日が終わるまでを植物とともに生活する彼の話には、私たちがお手本にしたい、自然体で柔軟なマインドがありました。

大阪の池田駅から車で10分。
住宅エリアを少し離れた山の麓に、「そら植物園」があります。

約17400平方メートルという広大な敷地からなるそら植物園は、今回取材する西畠清順(にしはたせいじゅん)さんが立ち上げたプロジェクトの拠点であり、農場。珍しい形の植物や、見たことのない大きさのオリーブの木、さまざまなスタッフさんたちを横目に、農場の奥にあるオフィスへと歩きます。

インタビューは、オフィス前で焚き火を囲みながらすることに。鳥の声が聞こえ、冬に向けて色づく山々と街の眺めは、なんともきれいです。



「こんにちは!」
息を切らして、西畠さんがやってきました。

そら植物園はちょうど中学生の職場体験の受け入れ期間中だったそうで、「さっきまで中学生たちとサッカーしてて。毎回本気になっちゃうんですよ」と豪快に鼻をかんで無邪気に笑います。

「ここ大阪府池田市は日本四大生産地のひとつで、江戸時代より前ぐらいからの歴史があるところ。僕はその植木問屋のひとつに生まれ、必然的に家業として植木をやるようになりました」

のちに、当時のスタッフがついてくる形で独立。2012年にそら植物園を立ち上げました。街やイベント空間、施設のグリーン化を基本的な活動とするそら植物園が他と違うのは、すべての工程を一貫して行うところ。

「エクステリアデザイナー、問屋、生産者、輸入業者、造園工事業者……と、植木って、ジャンルがとても細かく分かれているんです。これまではそれぞれを専業するのが普通だったんですが、僕は植物を探しに行って輸入して、卸流通をして、デザインして設計、工事までをやってしまいます」




海外にある日本企業のオフィス緑化から、イギリス王室のウィリアム皇太子のチャリティイベントの会場装飾・出席と、「植物」の枠では想像できないほど世界規模のお仕事に携わる西畠さん。今は8割がホテル暮らし。そのうちの1/3ほどを海外で過ごしていると言います。

植木の仕事をはじめたのは21歳、今から約22年前の頃。高校を卒業後、海外を1年半くらい放浪。将来的に英語は勉強しておいたほうがいいと思い、オーストラリア留学も経験しました。

「今の僕があるのは英語があってのものなので、留学は本当にしてよかったです。例えば今朝はドバイで開かれる国際会議で、世界の都市開発における緑のあり方について講演してほしいというオファーがありました。実は講演の依頼も多くて、それらは英語で話さないといけないですし、年間200トンほど植物を輸出しているので、そういった業務にも必要になってきます」

先ほど挙げた一社通貫というセンセーショナルなやり方と、もうひとつ、彼がメディアに取り上げられ、世界中から注目されるようになったきっかけがありました。


    人のマネをせずに、自分が思うものを突き詰める

そら植物園にある植物は、いわゆる街路時や花壇などにあるような、見慣れた花木ではなく、ちょっとひとクセある、珍しいものばかり。大きさも規格外です。

「この業界に入ると、普通は市場に行って生産者を回ってと教えられるんですが、僕の場合はそれが山だったんです。自然の山でおもしろい木を見つけて採ってくるっていうのが仕事。当時はそんな発想はなかったんですよね」

効率よく育てられた木よりも、あるがままに生きている木に惹かれたという西畠さん。その自分の気持ちを大切にし、素直に行動に移してきた先に今の姿があります。


西畠さんが実際にアルゼンチンの森に入り、採取してきたパラボラッチョの大木

「僕はただ人のマネをしなかったんです。ラッキーなことに、自分の人生でやりたいことがなく、植物が身近にある家にあったのでそれに集中できたというのもあります。植物に特化して、石の上にも10年と思い、とにかく30歳までは植物の仕事に専念しました。名前も公表せず、取材も受けませんでした」

人生のターニングポイントは、その後、意外にも簡単に訪れました。

「30になってからそれらを解禁したとたん、僕がやっていることがおもしろいって『情熱大陸』や『NHKスペシャル』に、取り上げてもらったんです」

番組で「プラントハンター」という肩書きで紹介され、そこから、西畠さんは一躍時の人となります。ただ、周りから注目されるきっかけとなったのは「人のマネをせずに自分の思うものを突き詰めていった」からだと言います。

「人の人生は、人のマネをして、人のやっていることをなぞらえて死んでいくと思うんです。僕はその必要がないと、はじめから思っていました」



    植物が魔法のステッキになった

そんな西畠さんに、そら植物園で働くときの1日のルーティーンを聞いてみました。

「まず朝起きて、だいたい子どもとじゃれ合います(笑)。それが終わったら、絶対に朝風呂に入ります。出張の時はイレギュラーだったりしますが、それでもできるだけ入って前日の疲れを抜いて、しっかり体を温めて。朝から頭をフル回転させないといけないので、朝はお風呂に入るっているのが絶対のルーティーンですね」



昼に会食が入っている日以外は昼食の時間がほとんどないため、少しだけ朝食をとり、息子さんを保育園に送り、農場へ向かいます。驚くべきは、それまでに10〜20の仕事を終わらせているそう!

「歯磨きしてる間や、トイレで大便してる間、子どもを保育園に預けている隙間時間とかに、僕はパソコンを持っていないので、スマホで全部やっちゃいます。9時からそら植物園業務がはじまるので、スタッフへの指示出しだったり」

それから農場へ着くと、大忙し。農場やオフィスに西畠さんがいるのは貴重なので、30分や1時間ごとに全国や海外から来客があります。さらに業者さんとの打ち合わせや取材を受けたり、プレゼンをしたり、農場案内をしたり。スタッフとの打ち合わせ、図面の指示など、まさに「フル回転」でお仕事をこなします。

「でも仕事は日が暮れるくらいまで。スタッフより早く帰るようにしていて、それは子どもに会いたいっていうのもありますし、僕が残っているとスタッフがやりづらいと思うんです。なので、とにかく一番に帰る。そして帰ったら一番はじめに風呂に入ります」

お風呂の後、夕食、お子さんとの時間が終わったら就寝……と思いきや、そうはいきません。短くて2時間、長くて8時間、力尽きるまで仕事をしてようやく就寝です。そんな超多忙な毎日を送る西畠さん。やはり私生活にも植物を置いて癒されていたり……?

「僕、朝起きてから1日が終わるまで植物のことをやっていて。農場もそうですし、東京に行ってようが、地方に行っていようが、海外に行っていようが植物。でもね、家に帰ったら案外普通なんですよ。季節の花が活けてあって、置いてある観葉植物もごく一般的なものです。がんばって家をデコレーションするとかはないですね(笑)」


ご自宅に活けてあるお花の写真(ご本人提供)

ほとんど自宅にいないので、世話もしていられないのが現実。でも、そんなホテル暮らしのなかにも、ちょっとしたこだわりがあります。

「ベランダやテラスがあって、自然光が入ってくるほうが好き。さらに言うと、お風呂から外の景色が見える部屋を好んで選びます。なんか外と繋がっていたいっていうのがあるのかもしれないですね」



パチパチと音を立てる焚き火に薪をくべながら、西畠さんは続けます。

「僕は兵庫県川西市の家でごく普通に育って、普通に学校へ行って、普通に暮らしていました。それが、植物をはじめてからは周りから天才天才と言われはじめて。イギリスの王室や海外の財閥、政府や企業の社長さん、行政の方たち……社会的に影響力を持った人たちがいざ植物の話になると、僕の話をめちゃくちゃ聞いてくれて、リスペクトしてくれるんです」

中学生たちとのサッカーで汗をかいた時のように、その表情は無邪気なままです。

「僕は植物のことだけはとてつもなく詳しくて、実践できるという自信があるので、どんな強い人にも影響を与えることができる。僕にとって、植物は魔法のステッキのような存在かもしれません」

    植物も人と同じ。好きや嫌いがあっていい

一番好きな植物はありますか?という唐突な質問には、「やっぱり、桜です」とすぐに答えてくれました。理由は、一番人間っぽいから。咲いたら見事で、散ったら寂しい。弱っていくさまが顕著なのも人間と同じで、桜が咲いたら国民がみんな浮き足立つという、他の植物にはないカリスマ性にも惹かれるのだと言います。

植物との付き合い方は「人間と一緒じゃないですか?」と、軽やか。




「人は誰かを好きになって、愛して、一緒になって。気が合って一緒にいる人もいれば、この人なんか嫌いとか、なんなら憎んだり喧嘩したりするわけじゃないですか。僕からすると、植物全部好きだよ!なんて嘘くさいなって思うんです。興味がある植物と興味がない植物なんてあって当たり前だし、それを隠す必要はないなって思ってて。植物って無理して付き合う必要はないです。植物を愛せる自分のほうがいいというわけでもない」


僕は植物が全部好きなわけじゃない。と率直に話す西畠さんは、こうも続けます。

「気が合えば一緒にいたらいいし、居心地いいなって思ったり、居心地は良くないけどなんか刺激的だなとか。なんか学べそうだからとか思ったら付き合ってみたらいいし。そう思わなかったら無理して付き合わんでいい(笑)。友達や恋人と同じように思えばいいんじゃないかなって。植物も、人付き合いと同じですよ」

例えば昨日かわいくて買った花に、名前をつけて同居人として接してみてもいいかも…?
前例のない世界規模の大きなプロジェクトを動かす監督で有りながら、植物との接し方も人とのコミュニケーションも、どこまでも自然体な西畠さん。暖かい焚き火を囲んでのインタビューには、素朴なぬくもりがありました。



BOTANIST Journalが提案するのは、自然の中に生きる「ボタニカルライフスタイル」。ふたつと同じ花がないように、100人いれば100とおりの付き合い方があっていい。誰かのマネはせず、自分らしく。プラントハンターと呼ばれ、植物を極める西畠さんから学ぶ「自然体」のマインド。私たち人と植物とを心地良くつなぐ鍵になりそうです。

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執筆:和島美緒
編集:安岡倫子
撮影:中島真美