まなざしによって変わる世界。
佐藤さんが手がける影アートは、見ている私たちをなんとも不思議な世界に誘ってくれます。日の光に照らされた木々など、木の葉の輪郭が想像できる影ばかりを目にしているように思えますが、目の前のオブジェと、その影が、全く異なるものに見えます。「私ひねくれモノなんです(笑)。作ったオブジェから、できるかぎり連想できない影を作りたくて。人の形をしたものから人の影が投影されても面白くないですよね。でも、ちょっとそのオブジェのルーツも感じられるような影にできたらなって。」
異なるように見えて同じ世界。
「例えば『Lost and Found series No.1』という作品は、鉄道忘れ物市の模様を夕方のニュースで見たことがあって、『昔は誰かに可愛がられていただろうものが、今では安価で売られていて、この落とし物や忘れ物はどんな気持ちなんだろう』って、擬人化するじゃないけど、この子たちの魂を投影できたら、また日の目を浴びることができるんじゃないかなって。だからといって、ぬいぐるみで作ったオブジェを投影した人の影が、『ぬいぐるみ、だから女の子』というのは、ストレート過ぎてつまらないですよね。でも、そのぬいぐるみのルーツも想像できるものにもしたい。そんなバランスを考えながら作品を作っています。」
ヒト・モノ・コトによって変わる世界。
光と影を通し、現実と虚構の狭間のような世界を作り出す佐藤さんは、普段、舞台照明の仕事をされています。「舞台ってなんとなくダサいイメージないですか?私も高校生のころそうやって思っていて全く興味を持てなかったんですが、友人に連れられて行った『キャッツ』をみたら『すごい!すごい!猫がいるじゃん』って(笑)。そこから、いろんな舞台を見に行くほどハマってしまったんですが、その中で出会ったコンテンポラリーダンスの舞台照明が印象的で。高校を卒業したら普通に就職して平凡な人生を送るイメージしかできなかったのが激変して、舞台照明の仕事がしたいって。」
自分だけが描ける自分だけの世界。
短大を卒業し舞台照明の会社に就職した佐藤さんは、自分だけの表現を模索するようになったそうです。「照明の会社で、ある程度技術が身に付いたとは思うのですが、そのベースの枠組みを払拭できないというか、このまま今の感じの仕事を続けていたら『こういうときはこう』みたいな平均的なものしか作れなくなるような気がして悩んでいたんです。私が照明の仕事をするきっかけとなったコンテンポラリーダンスの照明も、アーティストの方が主に演出をプランした部分があったり、これまで『すごい!』『良い!』と思った作品の照明さんのルーツを知ると、照明の仕事の経験がない人のものが多くて。どうしたらそういうセンスが身につくのか、模索していたときに出会ったのが影アートなんです。」
固定観念にとらわれ毛嫌いしていた舞台を偶然目にしたことで、自身の世界までもが180度好転し、さらには照明を通じて影アートを手がけるようになった佐藤さん。そんな佐藤さんのお話を聞くと、目の前のオブジェと異なる影、という作品がより理解できたように思います。皆さんは、まなざしや立場を変えた途端、それまでの価値観が180度変わり、今の自分自身を支えている、といったような体験をされたことはありませんか?そんな皆さんなりの世界を、共有させていただきながら、ランチでもできたら、楽しそうですね。
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佐藤江未(MESSY.WORK)
2020年から本格的に影アート製作を始める。廃棄物や身近な素材などから影アートを作り出す。舞台照明家。