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森林浴で癒されるのはなぜ?森が人にもたらすもの

森の中で過ごし、心癒される森林浴。最近では、科学的証拠に裏付けされた森林浴を“森林セラピー”と呼び、心身の健康に役立たせる動きが全国各地で広まっています。中でもその先駆けであり、20年以上前から町独自の「癒しの森®」事業を展開しているのが、長野県・信濃町。現地を訪れ、森の持つ真の力に迫りました。

 森林浴を科学する、一歩進んだ森林セラピー。

長野県の北端に位置し、四方を山に囲まれた避暑地である信濃町の「癒しの森®」。ここでは、心身の健康維持・増進や病気の予防を目的に「森林メディカルトレーナー®」と一緒に森を歩く、「森林セラピー®」 体験ができます。

森に入ると、まずは五感を開くことからスタート。さまざまな木の葉に触れたり匂いを嗅いだり、耳を澄ませて鳥の声や川のせせらぎの音を聞きます。水辺では裸足になって足をつけたり、ゆっくりと深呼吸をしたり。拾った小枝で爪の根元にあるツボを刺激する、爪もみなども試します。そうして森に慣れてきたら「森のカウンセリング」タイム。気に入った場所や、ピンとくる場所を見つけ、しばし静かに、一人の時間に浸ります。このように数時間、ゆったりと森の中で過ごすことで、心と身体が癒されていくのです。

2006年の認定開始以降、「森林セラピー® 」が体験できる森として認定された「森林セラピー基地® 」および「セラピーロード® 」は、全国に63か所。それぞれに、森林セラピーガイドや森林セラピストと呼ばれる専門家が常駐しています。

信濃町では2003年より、風光明媚な自然環境を保全しつつ保養型観光地を目指す「癒しの森®」事業を推進しており、2006年に第1期森林セラピー基地に認定されました。事業の核となる「森林セラピー® 」では、森での免疫療法と町独自の療法を組み合わせ、より森の癒し効果を高めたプログラムを用意。町が育成する「森林メディカルトレーナー®」による案内の下、提供しています。企業・団体・学校などの研修プログラムの一環として実施することをメインとしつつ、最近増えているという個人からの問い合わせにも対応。友人や家族などの少人数グループや、おひとり様での参加も見られます。

 
 

森が人を癒す、3つの理由「フィトンチッド」「1/fゆらぎ」「ハイパーソニック・サウンド」。

ではなぜ、森で過ごすと心身が癒されるのでしょうか。「森林メディカルトレーナー®」の河西 恒さんによると、大きく3つの理由があると言います。

一つ目は、害虫などの外敵から身を守るために木が放出している成分「フィトンチッド」。いわゆる“森の香り”がこれにあたり、アロマテラピー的なリラックス効果に加えて、消臭、除菌・抗菌、抗酸化作用があるとされています。森に入って「フィトンチッド」を浴びることが、身体の健康や心の安定につながるのです。

二つ目は、規則的ではなく、不規則に変化する動き「1/fゆらぎ」。木や葉のゆらめき、木洩れ日、風の流れ、川のせせらぎなど、自然界の動きはいずれも「1/fゆらぎ」ですが、人間の生体リズムもまた「1/fゆらぎ」だとされています。そのため、森に入ると自然と同調し、本来の自分のリズムを取り戻すかのような心地良さを感じてリラックスできるのです。

三つ目は、人間の耳には聞こえない高周波成分を含む音「ハイパーソニック・サウンド」。虫や鳥の声、木や風のざわめき、川のせせらぎなどの音がこれにあたり、耳で聞こえずとも皮膚や身体で感受できるとされています。そうして全身で「ハイパーソニック・サウンド」を浴びると脳機能が高まり、結果的に体調やメンタル不調の改善といった効果が得られるのです。

「森林セラピーは、その効果がきちんと科学的に証明されている点が特徴です」と河西さん。実際に森林セラピー前後で血液検査や血圧測定などの医学的調査を行った際には、血液データの数値が、自律神経が安定するといわれる数値に近づいているという結果が出ています。また、血圧が高い人は低く、低い人は高くなって正常値に近づいたり、唾液中のストレスホルモン濃度が低下したり。細胞が活性化して免疫力が高まったというデータもあります。


森で過ごせば、人が変わる。関係が変わる。

科学的証拠に裏付けされた森林セラピー。その効果を得るべきは、なにも心身に不調を感じる方だけではありません。「健康な人でも、森林セラピーを体験すると『なんだかとても元気になった!』と言われるんですよ」と河西さん。「特に敏感な人や自然と親和性の高い人は、森に入ると纏う雰囲気がガラッと変わるのが印象的です」と話します。

他にも、多くの参加者が「こんな世界があったんだ!」と驚いたり感動したり。自分の枠を超えるような感覚を覚えて、「新たな創造性が生まれた!」「クリエイティブな体験になった!」という喜びの声も多いと言います。

また、河西さんいわく「職場の上司・部下を含むグループの場合、上下関係抜きにコミュニケーションが活性化されて、関係性が良くなることも珍しくありません」。それは大人に限ったことではなく、「以前、幼い兄弟のいる家族をご案内した際には、喧嘩ばかりだった兄弟が次第に仲良く遊びはじめ、そこに両親も参加するようになって、バラバラだった家族がまとまっていく様を目の当たりにしました」と振り返ります。このように、森林セラピーをきっかけに明らかな変化を感じた参加者の中には、リピーターになる方も少なくないそうです。

だからこそ、「現代社会に生き、ストレスにさらされながらも日々仕事を頑張っているすべての方々へ。自分が幸せであるために、より一層自己を発揮して多くの成果を出すために、ぜひ一度森に来てもらいたい」と河西さん。半日でも森で過ごせば、その人本来の体調バランスや心の有り様が戻り、今まで知らないうちに閉ざしていた感覚が開く。そうすると、ポテンシャルが発揮できるようになり、ベストパフォーマンスが引き出されて良い結果につながっていくのです。


都会でもできる、今日から始める自然体験。

森に入るとたくさんの癒し効果が得られると分かっていても、街なかに住んでいると、なかなか頻繁に通うのは難しいもの。そこで、日常生活で少しでも森の力を感じられる方法について、河西さんはこう提案します。

●毎日
例えば、自宅のリビングやベランダで、小さくても良いので植物を育て、愛でるのもいいでしょう。また、毎日の通勤・通学ルートに街路樹があるなら、積極的に活用してください。前述の通り、木はフィトンチッドを放出しているため、少しでも浴びられるよう、なるべく木の側を歩くよう意識することがポイントです。

●毎週1回、毎月1回
週に一度は、公園や神社など、自宅や職場の近所にある緑の多い場所へ。さらに月に一度は、もう少し足を延ばして大きな森林公園などに出かけることがおすすめです。都会でも意外と、質の高い緑地空間は存在するもの。地図検索サイトやアプリを使って自宅周辺の緑の多い部分を探し、衛星写真で様子を確認して、良さそうであれば実際に出かけてみましょう。ピクニック気分で、ゆったりと食事や読書、運動などを楽しみながら半日ぐらい過ごすと、良いリフレッシュになります。

●3か月に1回
ワンシーズンに一度は、生活圏から完全に離れた場所にある森へ、泊りがけで出かけるのもいいでしょう。非日常空間で、しっかりと自然に浸るのです。その際、できればガイドと一緒に歩くのがおすすめ。例え森林セラピーの専門家ではなく、自然ガイドのような方と一緒でも、一緒に植物や昆虫、鳥などを観察すれば新たな視点や知識を得て、これまで知らなかった自然の面白さを感じられるはずです。

また、「信濃町には私以外にもさまざまな嗜好のトレーナーがいます。同じ森でも、違う季節に訪れたら印象が違うのはもちろん、違うトレーナーと歩くのもまた、雰囲気がガラッと変わって面白いですよ」と河西さん。生き物に詳しい、カウンセリングが得意、アロマやヨガのトレーナーとして香りや身体機能の情報にも精通している、田舎暮らしが長いので人々の暮らしと自然を紐づけて紹介できる……等々、個性豊かなトレーナーとの出会いも、森を訪れる楽しみの一つになるのです。

私たち人間にさまざまな恵みをもたらしてくれる森。まずは身近な植物に触れるところから始めて、のびのびと緑に包まれる、じっくりと自然に浸る時間を、生活に取り入れてみてはいかがでしょうか。

以上、森の持つ力と、日常でできる自然体験についてご紹介しました。

植物の恵みから生まれたBOTANISTはこれからも植物の力を活かした製品づくりを行うと共に、植物の保全活動を幅広く展開していきます。
BOTANIST財団として2024年から助成を行っている一般財団法人C.W.ニコル・アファンの森財団が位置する信濃町は、BOTANISTとも縁のある大切な場所です。
これからも植物と人が共に生きられるような地球環境の持続をめざして。

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