Botanical Moments #3 中村力也 | ボタニカルライフスタイルマガジン - BOTANIST Journal

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Botanical Moments #3 中村力也

ふとした瞬間に植物の存在を身近に感じ、人は穏やかな安らぎとポジティブな生命力に包まれる。 Botanical Moments3回目は、写真家・中村力也さんが人の営みや物語を連想させる写真に欠かせない「植物の存在」を語ります。

「私たちは植物と生きている」という事実は、ロジックではなく、エモーショナルな瞬間との直感的な出会いがきっかけになることも多いものです。
「Botanical Moments」は、気鋭の写真家たちが、日々の植物の存在を強く感じた瞬間を自由に切り取ります。

想像力をかきたてる植物の存在

学生の頃から旅が好きでした。写真を始めてから、1年間夫婦で世界一周の旅に出たこともあります。旅先で写真を撮るときは、人を撮るときも建物をとるときも、何かしら植物を絡めて風景を撮る時が多くあります。人や建物と植物がお互い作用し、調和しているような間が好きなのだと思います。

もちろんそれぞれ単体で撮ることもありますが、やや引いて、人と植物、建物と植物が絡むとそこに住む人の物語を想像することができます。その植物が家とやや奇妙なサボテンであれば、厳しい乾いた砂漠の中でもどこかユーモアを感じる生活を想像できるような。

それは普段歩いている道でも同じことで、家の周辺に植物の鉢が並んでいると、どこか生活と暮らしを想像できるし、和らぐ。なんだか気がいいなと思う空間にはさりげなく植物があったり。

今、3歳の娘が、自宅から徒歩圏内の園に通っているのですが、毎日道端に落ちている葉っぱを拾い、先生にプレゼントするということが習慣になっています。夏ごろからスタートして秋になり葉の色が変わって、だんだん葉が脆くなる様子を認識して「葉っぱなくなっちゃうの?」と言ったり。たった一枚の葉から、人への思いやる行為や季節の変化、色の変化、そこにある生死など直に肌で感じる様子を見て、人間は意識せずとも植物と歩んでいることを感じました。

手ぶらで公園に遊びに行っても、松ぼっくりが落ちていたらそれをいくらでも拾って遊ぶことができます。ボールに見立て、木の棒を見つけてバットにしたり、的当てしたり。何かはっきりした遊具を持っていくとひとつの機能でしか遊べないけど、植物だと自由に想像を広げることができるのは面白いですね。例え植物の名前ははっきり知らずとも、身近なところにある植物は、無意識のところで人間の想像力のヒントの源になっているのかもしれません。

—写真をはじめたきっかけは?

中村力也(以下、中村):学生の頃にバックパックで旅をしていて、当時はお金もないから使い捨てのフィルムカメラを持って行って写真を撮っていました。でも、あがった写真を見て「自分が見た景色はもっときれいだったな」と思って、その気持ちがどんどんカメラの追求に向かいました。結局いいカメラを買ってもやっぱり撮れなくて、スタジオに入りました。

—シャッターを切りたくなる瞬間は?

中村: あえて言うと気配みたいなものでしょうか。持っているカメラによって切りたくなる瞬間や自身の性格も変わってくるので、これといったものは実は難しいのですが、気配のようなものが佇む「あ」と思った時に、シャッターを切るようにはしています。

—好きな植物は?

中村:ガジュマルです。沖縄もそうですが、暖かい国には街中に大きな木があって、その下に人が集う光景がよく見られました。ガジュマルはその中でも生命力や神秘的なものを感じる木で、南の国のゆるい雰囲気と時間の流れがイメージできますね。小さいものをプランターで簡単に育てられるのも好きなポイントです。

—日常の中でボタニカルを感じる瞬間は?

中村:朝起きると自分の左手にカーテンがあって、それを開くと隣の家の庭が光り輝いている。晴れた日はキラキラしていて前向きな感じだし、風雨にさらされているときは物悲しく感じたりもしますが、それがいつも1日の始まり。

—普段取り組んでいるサスティナブルなことは?

中村:何をもってサステナブルかは、難しいですよね。チベットやラダックでは家畜を中心とした循環システムが見事で、糞を肥料にして畑を耕し、冬は燃料にして家を温め、時には建材にも利用し、家庭で使用した水は畑にまくなど、暮らしの中で「目に見える形」で循環させていました。今の生活ではそれが難しいけど、簡単なところで言えば「この人なら大丈夫」と思える方がつくるものを、顔が見える地元の食材を選んだり、仕事や付き合いの上でも「循環」を意識して暮らしていけたらと思っています。

—今後挑戦してみたいことは?

中村:気がついたら百名山を1/3以上は登っていたので、これからも続けていきたいと思っています。制覇したいわけではありませんが、どこかへと考えたときに、百名山をひとつの指針として考えるのは麓をめぐるだけでも楽しい。山は自然のことを考えると同時に、自分自身のことを考えるきっかけにもなります。山に登るとなるとコンディションを整えるし、予定も調整したり、身辺を整える。適度な緊張感が居心地のいい生活につながる気がします。

日々、なんとなく目にしている風景に癒される。そこには必ずと言っていいほど植物の存在がありそうです。植物学者でなくても、写真に映っている植物からその土地の気候や風土、空気感を想像することができるのは、私たちが小さい頃から植物とともに生きてきたから。そう考えると、好きな植物から、自分が心地いいと感じる暮らしのヒントが見えてくるかもしれません。

PROFILE

中村力也

鹿児島県出身。西南学院大学卒業。ZeppFukuokaで勤務後、上京。株式会社Azray(amana group)Grip10Ban(10Ban studio)を経て広告写真家、高柳悟氏に師事したのち、一年間夫婦で世界一周の旅に。帰国後、2018年東京を拠点に活動を開始。広告や雑誌などの媒体で活躍。写真集に、世界一周旅行で撮影した写真を「写真で詠む、旅の小説」を念頭において編集した『NOTHING NEW』がある。

Photographer: Rikiya Nakamura Writer:Akiko Yamamoto Dirction: Mo-Green Co., Ltd