BOTANIST Journal 植物と共に生きる。

BOTANIST journal

PEOPLE 22

Botanical Moments #2 Nico Perez

ふとした瞬間に植物の存在を身近に感じ、人は穏やかな安らぎとポジティブな生命力に包まれる。
Botanical Moments、2回目は写真家・Nico Perez(ニコ ペレズ)さんが登場。彼はどのような瞬間に「植物の存在」を感じるのか。儚く淡い色使いと独特な質感で表現される作品に合わせて紹介します。

「私たちは植物と生きている」という事実は、ロジックではなく、エモーショナルな瞬間との直感的な出会いがきっかけになることも多いものです。
「Botanical Moments」は、気鋭の写真家たちが、日々の植物の存在を強く感じた瞬間を自由に切り取ります。

“Just feel.”
植物がもつポジティブなエネルギー

<Untitled (Olive),2018>

僕の写真は、心が動いたときに撮ったものがほとんど。 だからどの写真を見ても、撮った瞬間を思い出して、そのときの気持ちや考え方、哲学がよみがえってくる。「Photography is my life」だね。 写真は僕の人生の日記のようなものなんだ。

植物を撮った作品は多いかもしれない。子どものころから植物や自然に興味があったわけではないけれど、大人になって難しい経験をするたびに、植物からエネルギーをもらってきたんだ。前を向かせてくれたり、肯定してくれたり、僕の感情を落ち着かせてくれる、みたいなね。だから、僕にとって植物はとても大事な存在なんだ。

植物からエネルギーを感じるとき、僕には目に見えているものとは異なる色を感じる。その色はたぶん、「植物が発しているエネルギーの色」なんじゃないかな。植物の写真を現像するときは、実際の色じゃなく、そのエネルギーの色を表現できるように調整したり、僕の気持ちを色で表現したりすることが多いんだ。

<That day in Brighton, 2017>

この作品はロンドンに住んでいたころ、自分にとって大きなライフイベントがあって、すごくエモーショナルなときに行ったブライトンのビーチで撮影した、カップルの写真と花の写真のコラージュ。

海を歩いていたらカップルを見つけて、「誰かと一緒にいるっていいなあ」って、さみしい気持ちになってしまったんだ。でも、その近くで咲いていた花がきれいで美しくて、見ていたら元気をもらった。これからもっと明るい未来がある、新しい旅がはじまるって思えたんだ。感傷的になる経験も、いい経験。だから悪くないよねってポジティブになれたよ。

でも、さみしい気持ちがちょっとだけ大きかったから、カップルの写真を多く入れてコラージュしたのかも。もっと視覚的・感覚的な理由だったかもしれないけどね。

<Untitled, 2018>

大きなライフイベント以外でも、植物にはいろんなシーンでエネルギーをもらっているんだ。

この作品は雑誌の撮影の合間に撮った、空と木の写真。ふと空を見上げて木を見ていたら、撮影後にみんなで「お疲れ〜!」って踊りたい気持ちになって、動きを出して撮影したんだ。冬だったから、木の枝と灰色の空だけのモノクロみたいなシンプルな景色だったけれど、その日の撮影が楽しかったから、あたたかい色のフィルターを入れてみたんだよね。

東京はビルも人も多いから、ちょっとした隙間で少しでも自然を感じたいと思ってるんだ。時間があるときは、家の近くの公園を歩いてエネルギーをもらってるよ。都会だけどきれいな自然があって、空気もちょっと美味しい気がする。

<Tape & moon, 2020>

この作品は、とにかくリラックスしたくてアトリエの屋上に行ったときに撮影した日没の空の写真。現像したあとに何か足りないなと思って、真ん中にテープを貼ったんだ。これは感覚だから説明は難しいんだけどね。

空があるから、太陽があって、植物が存在している。同じように、植物が存在しているから、空気があって、僕たちは呼吸ができる。植物はエネルギーをくれる大切な存在だし、生きていくためにも大事にしないとね。植物は、僕の人生にもみんなの人生にも繋がっていると思うから。

<Hajime san’s rose, -2020>

—写真をはじめたきっかけは?

Nico Perez(以下、Nico):18〜19歳くらいのときかな。大学では映像と言語学を専攻していたんだけど、映像制作はチームワークだから、もっと自分の声、自分の考え、自分の感覚を表現したいと思って写真をはじめたんだ。

—シャッターを切りたくなる瞬間は?

Nico:心が動いたとき。”Not thinking, just feeling.” 特に色や音から感じて、写真を撮ることが多いかな。その瞬間を大切に残したいから、ほとんどいつもカメラを持って撮影できるようにしているよ。たまにフィルム、デジタル、たまにアイフォン。

—好きな植物は?

Nico:I like all trees!でも特別好きなのはオリーブ。スペインではオリーブが日本の味噌汁みたいな存在で、小さなころからよく食べていたんだ。僕の体はオリーブオイルでできてると言ってもいいくらい! オリーブが有名な小豆島にも1回行ったんだけど最高だったよ。

—日常の中でボタニカルを感じる瞬間は?

Nico:本当に植物が大好きで、家でもアトリエでも植物を育てているから、毎日水やりしながら「Hello~ Hello~!」って話しかけたりさわったりしてるよ。子どものころから母親に「Talks to your trees」ってよく言われていたんだ。

—普段取り組んでいるサスティナブルなことは?

Nico:マイバッグを持っていくことかな。日本はリサイクルにしっかり取り組んでいるのに、いろいろな梱包にプラスチックを使いすぎだなって感じる。スーパーでアボカドを買ったとき、ビニールに入れてテープでとめて、またビニールに入れて渡されたときはびっくりした。でもときどきマイバッグを忘れちゃうことがあるから、「マイバッグがない人はスーパーに入れません!」ってことにしてほしいなと思ってるくらいだよ。It’s a joke, but seriously! 今はジョークみたいな話だけど、未来のことを考えると本当にそのくらいしないといけない日が来るかもね。

—今後挑戦してみたいことは?

Nico:やりたいことはいっぱいあるよ。全部紙に書いて冷蔵庫に貼っているんだ。その中でもビッグプロジェクトは、作品集を出すこと。500ページとかのね。時間もかかるけど、2年後には出したいなって。今は写真家としての仕事が多いけど、映像監督、クリエイティブディレクターとしての仕事もどんどん増やしていきたいと思っているよ。

人生の大きな出来事から日常生活の些細な瞬間まで、さまざまなシーンで自然や植物からパワーをいただいて、それを写真で記録してきたNicoさん。自然に囲まれた特別な場所へ出かけなくても、ふとした瞬間に見つけた自然の存在が、あなたにもポジティブな変化をもたらしてくれるかもしれません。

PROFILE

Nico Perez(ニコ ペレズ)

1986年、スペイン・マラガで生まれる。幼少期にイギリス・ロンドンに移住し、スペインとイギリスを行き来しながら子ども時代を過ごす。2008年、はじめて訪れた東京で、街の「青い」空気感や都市の孤独感にインスピレーションを受ける。 2009年、ロンドンで開催された写真家・川内倫子氏のワークショップのメンバーに選ばれ、写真家になることを決意し、東京に移住。2015年、初の写真集『Momentary』を発売し、同時に個展を開催。以降、個展「Stills from life」(16)、「Kingsland Road」(18)、「Chasing Blue」(19)、「離れる|Take Off」(21), 「Havana, Cuba “The Reprint”」(21), 「Let me be what I want to be」(22) を開催する。現在は東京を拠点に活動中。

Photographer: Nico Perez Creative Dirction: Mo-Green Co., Ltd.