ティーツリーの持つ力 | ボタニカルライフスタイルマガジン - BOTANIST Journal

BOTANIST Journal 植物と共に生きる。

BOTANIST journal

PEOPLE 15

ティーツリーの持つ力

「植物はイメージじゃない。機能する。」 植物は私たち人間に大きな効能を与えてくれています。 そこで、今回は、日本メディカルハーブ協会の理事を勤められる木村正典さんをお迎えして、昨今、抗菌、抗ウィルス、そして美容効果にも注目を集めるオーストラリア原産のハーブ、ティーツリーの驚くべき力を、みなさまにご紹介させていただきます。

サスティナブル・アグリカルチャー。
害虫や雑草などとの共存を目指した家庭菜園

サスティナブル・アグリカルチャー。直訳すると「持続可能性を考慮した農業」となるのですが、この思想を家庭菜園に生かす研究をされている日本メディカルハーブ協会理事の木村正典さん。 サスティナブル・アグリカルチャーという言葉が発表された1980年、当時農学部に通いながら、発展途上国などで行われていた生産効率のみを求めたモノカルチャー、つまりバナナならバナナだけを育てる単一栽培に疑問を感じていたそうです。
「農家にとって効率よく生産性が高い方法を研究していたのですが、よくよく考え直したら害虫も益虫も雑草も、みんな同じ虫だし植物だし、ひいては我々人間も同じ生態系の一部ですよね。人間も虫や植物と同じ生き物として共存していくことが、本来はあるべき姿なのではないかと考えるようになっていたときに、サスティナブル・アグリカルチャーという言葉が生まれまして。生産性だけを追い求める商業としての農業には、この考え方を応用することは難しいように思えたのですが、家庭菜園や市民農園であれば、混色、つまり雑草も害虫も、他の品種の植物も、ともに共存する家庭菜園が実現できるのではないかと研究を進めることにしました。」

強く育つハーブの力

木村さんが研究されているサスティナブル・アグリカルチャーを応用した家庭菜園の技術になぜハーブを用いているのかを尋ねると「ハーブは野菜と比べて、自然に近い状態といいますか、野菜の場合は人間とともに進化を遂げていて肥料をあげないと育たない性質になっているものも多いのですが、ハーブはまだまだ野生に近い状態です。例えば、ハーブは香りが強いものが多いのですが、その香りは、外敵から身を守るために葉が傷つけられたり、かじられたりしたときにのみ、匂いを発します。あるいは傷が付くとそこから菌の侵入を防ぐために抗菌物質を生成するものも多いです。そのように自らで自らの生命を維持し子孫を残すためのチカラが活発であるという点において、野生に近い状態だとわかっていただけると思います。そんなハーブだからこそ育て触れることで、自然との繋がりをより実感できるのではないかと思っています。自然との繋がりを感じられると昨今求められているSDGsなどの考え方を、よりすんなり理解でき体現できるのではないか、そんなきっかけになればと活動しています。」

ティーツリー自身の生きる力

木村さんは、ハーブのなかでも、特にティーツリーの生きる力に惹かれているそうです。「ティーツリーは、主成分がテルピネン-4-オールで、他にもα~ピネン、8-シオネールなど、同じハーブのラベンダーなどと比べてもより強い抗菌作用を宿しています。先ほど述べたように、これらは外敵から身を守るために生成されたものです。 人は昔から病気や傷を治すために多くの植物の力を借りてきました。これらはかつて、これを食べたら腹痛が治ったのように伝承されてきたものですが、昨今は、この経験則に対してエビデンスがいくつも発表されるほど研究が進められています。トマトの栄養素のひとつであるリコピンは、私が学生の頃は無駄な栄養素とされてきましたが、科学的なエビデンスが発表されて以降、一気に注目を集める栄養素となったように、ティーツリーをはじめとするハーブにおいても、まだまだ未知なる力が眠っていることは間違いないと思っています。」

ティーツリーのことを知ることは
植物とともに生きていると感じられるきっかけ。

最後に、木村さんが手掛けた東京都内にある家庭菜園を拝見させてもらいながらティーツリーについてもう少し詳しく教えてもらいました。「ティーツリーの精油成分は、普段は葉っぱの中の部屋のようなところに閉じこもっています。透かしても見えるのですが、ルーペで見るとよりはっきり丸い点が見えるのですが、これが精油です。もちろん葉っぱ自体は、普段は香らないのですが、ちぎるとこの精油成分が現れ匂いが出てきます。
私は、この精油成分が、どのくらいの密度で密集してるか顕微鏡を覗きながら観察し、研究材料としているのですが、それをみていると、何のために精油を作り、どこに貯蔵しているのか、それを、どういう目的で貯めているのかと想像を膨らませたり、そうやってティーツリーに触れ知っていくと、より植物を身近に感じられるのではないかと思います。」

空まで続くのではないかと思えるほど広大なラベンダー畑は、確かに美しいですよね。しかし、よくよく考えてみるとラベンダーだけしか植えられていないその風景は異様ともいえます。ティーツリーの生きる力を木村さんにお聞きしてきましたが、このお話が何が美しく尊いのかというみなさんの新たな発見に繋がったら幸いです。

#プロフィール
木村正典
医療や健康という視点でのハーブの活用を推進することを目的に発足した日本メディカルハーブ協会の理事を務める。ハーブの栽培や精油分泌組織の観察を積み重ねると同時に、サスティナブル・アグリカルチャーを家庭菜園をはじめとした園芸に活かす研究に勤しみ、その手法を普及する活動をおこなう。


Youtubeにも同時公開しておりますので、動画でもお楽しみいただけます。