「植物も生きている」と感じた学術書のススメ―岩崎寛さん― | ボタニカルライフスタイルマガジン - BOTANIST Journal

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「植物も生きている」と感じた学術書のススメ―岩崎寛さん―

「植物も生きている」と心の底から実感できている人は、どれほどいらっしゃるのでしょうか?今回は植物の研究を通じて、植物の生きる力を実証されている千葉大学大学院園芸学研究科で准教授の岩崎寛さんが進める本を紹介いたします。

生理的にも心理的にも
植物は人を健康にする

千葉大学大学院園芸学研究科で環境健康学を研究されている岩崎准教授。
植物を介して人の心身の健康やストレスを緩和するという園芸療法、病院などの施設にどう植物を導入すべきかという病院緑化、といった人と緑との関わりを研究されている。
「わたしの研究は、生理的な健康の話でいいますと、例えば、ラベンダーの畑で5分間休憩するだけで、血圧が高い人が下がったり、低い人が上がったり、元の正常な状態に近づける働きがあるということを証明しています。また昨今注目されている心理的健康の話でいいますと、同じ屋内の空間で植物が見える/見えない場所に座ったときに、視界に植物が入るだけで、ストレスホルモンが5分の1程度低下し、さらには、20分ほどすると、より効果が増すといった研究をおこなってきました。このように植物は上手に取り入れると生理的&心理的両面で人の健康を向上させるという研究をおこなっています」

研究者を志す契機『植物の
不思議な力=フィトンチッド』

植物が人間の体を健康に戻す力があることは多くの研究で立証されているが、植物のどのような成分が、人の体を正常に戻すのかという理由は、まだ解明されていないそうだ。
しかし、植物が人間に与える影響は日進月歩だという。
「私が学生だった頃は、植物が人に与える効果を測定する技術として血液採取が採用されていたんです。注射で人の血を摂っている時点で、緊張したりストレスがかかりますよね。だから、その方法が適切であるか常に議論されてきました。その結果、今では唾液で計測できるように進歩しています」

岩崎准教授がこの世界に身を投じたきっかけを尋ねると
「ロシアのB,P .トーキン博士という方が書いた『植物の不思議な力=フィトンチッド』を大学院のときに読んで感銘を受けました。この本は、森林浴などで感じられる森の香り、フィトンチッドという揮発成分なんですけど、それに関して書かれた本なんです。人に良い影響を与える成分があるということで、とても衝撃を受けました。ただ当時は、この研究があまり進んでいなかったので、私がその先を進めていきたいと思い研究者を志した大切な1冊です」

植物が持つ生きる力を
研究により実感させられる

また、研究者という立場の准教授に、植物の「生」について尋ねると
「研究によって植物の生きる力について気づかされるたびに、植物が人間と同じように地球上の生き物であると感じます。例えば、植物は大地に根を張っているので、我々のように動けませんよね。もちろん虫が飛んできても逃げられません。そのため揮発成分を空気中に放出しているんですが、我々は、その成分をもとに、古くから使われている蚊取り線香のような除虫薬を作り活用させていただいています。また、現代では衛生的に疑問を持つ人もいるかもしれませんが、笹寿司のように、食品を葉で包むことで、腐りにくくしていますよね。昔であれば、おばあちゃんの知恵袋的に解釈されていましたが、これも植物が持っている殺菌能力を使わせていただいている例なのです。そのように、植物が持つ力を研究によって目の当たりにすると、植物をものみたいに扱うのは違うんじゃないかなって思ってくるんです。植物の力をいただいているのだから、我々も水をあげたり植え替えたり、お互い助け合いながら生きていくという感覚が大切なのではないかと思っています」

コロナ渦において、部屋で暮らす時間が増える中で、植物を視界に入る位置においたり、お水をあげることで、知らず知らずのうちに植物からの恩恵を受けていることに気づきます。感覚的には理解していますが、実験の結果如実に数字で出ているとなると、ますます、植物の大切さ、生きる力の尊さを実感するのではないでしょうか?

PROFILE

岩崎寛さん

千葉大学大学院園芸学研究科の准教授。環境学と健康学という従来は異なる学術分野を、現代の問題と向き合うために、2つの専門分野を融合させて学際分野として注目を集める研究をされている。なかでも、植物が人間に及ぼす影響や植物と人間との関係性を専門とする。

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