BOTANIST Journal 植物と共に生きる。

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PEOPLE 07

「植物も生きている」と感じた文学作品のススメ―加藤千恵さん―

皆さんは、どこまでを植物の命って捉えてますか?そもそも、なぜ植物が好きなのですか?歌人・小説家の加藤千恵さんに植物と作品、そして植物の不思議についてお話を聞きました。

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植物との暮らしで生まれた
感情の機微と作品

恋愛を中心に、読むものの記憶の奥底を呼び起こすように、誰もが経験したことがあるだろう心の機微を繊細に描く歌人・小説家の加藤千恵さん。
実は植物を愛好していることでも知られ、同世代の小説家と植物部なる部活動をおこなっていた。
そんな彼女の植物への愛着を作品にしたのが『私は恋をしない』という短編小説。
「多肉植物店を経営する女性と、そこに通う親戚の女の子が主人公として登場する小説ですが、そこには薔薇の花びらのように重なりあってすごく可愛いレインドロップという品種とサボテンを登場させています。まさに私が植物部として活動していてエケベリアという多肉植物を育てていた時期に閃いて書いたものになります」

中村航さんの『年下のセンセイ』
にみる植物の命と美しさ

植物との暮らしから、ひとつの物語が生まれることもあれば、加藤さんが愛読する植物が登場する小説から、何かを感じることもあるそうだ。
「植物の命ってどこまでなのかなって考えることがあって。中村航さんの『年下のセンセイ』という小説があり、生け花の先生と、その教室に通う女性とのラブストーリーで、とても好きな話なのですが、生け花って不思議ですよね。切りとられていて、花としての本来の形ではなく、生きている状態かどうかも判断に悩みますが、人間の手によって再構築することで、本来の姿よりも、生命力や美しさを感じたりするんです。わたしは、もともと人間がつくり出したもの、例えば夜景のような人工物に惹かれたり美しいと感じたりするので、植物の自然のままの美しさも好きですが、たとえば生け花としての植物も好きです」
昨今では、多肉植物のように、人間の手によって品種改良された植物も注目されている。
「フィカスという観葉植物を育てていたことがあって、フィカスの中でも、幹が曲がっているものだったんです。それは人が作為的に曲げているもので。なんて美しい曲線なんだろうって、お店で見た瞬間、心ひかれました。そのとき、植物部のみんなと一緒だったんですが、そこにいた同業者の友人が『すごく美人な感じがするから、美和子さんにしよう』って名前をつけてくれて、それがやけにしっくりきて、美和子さんと呼んでいました(笑)」

植物へのおもいと
変化する未知なる自身の未来

植物の生死の境界線はさておき、そのどちらの状態にも魅力を感じているというが、それについてさらに話を掘り下げた。
「カフェや電車などで、たまたま隣りあった人の話にすごく興味があるんです。つい聞き入ってしまう。いわゆる普通の人であっても、掘り下げていくと絶対に普通じゃない部分があったりして、それぞれに差異が必ずあるんですよね。そんな人々が話している内容や仕草から、感情をすくいあげるような小説を書いていきたい、と常々思っています。ただ、たとえば念入りに誰かに取材したとしても、他者に対しても人の気持ちなので、理解しきれない部分はやっぱりあるんです。それと同じように、自分の植物に対する感覚も未知ですね。そもそも、学生時代は植物やお花をもらっても綺麗だとは思うけど、すぐに忘れてしまい、枯らしてしまうことが多くて。言い方は悪いけど、通り過ぎていくだけの存在だったのが、今は生活のなかで清涼剤のような癒しになっているんです。なぜ、わたしは、そんなふうに植物への愛着が変化したのか自分でもわかりえないのですが、きっとこの先も植物への感情も含めて、自分自身が変わっていくのかなって思うと、どう変わっていくのか、それもまた楽しみなんです」
死をはじめ未知なるものは恐怖ですよね。同時に1秒後の未知なる世界にドキドキしたりもします。
わからないものをわかったと解釈し怯えもドキドキもしない人生よりも、加藤さんの描く物語の世界のように、そのときどきの気持ちの機微を目一杯感じられる日々を送れたらと。
もちろん、とてつもなく疲れそうではあるのですが(笑)。

PROFILE

加藤千恵さん

歌人、小説家。1983年、北海道生まれ。2001年、歌人・枡野浩一氏のプロデュースにより、短歌集『ハッピー☆アイスクリーム』でデビュー。短歌以外にも、小説やエッセイなどを執筆。最新刊は、短歌とショートストーリーなどをおさめた『この街でわたしたちは』。

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