人間の暮らしのそばにある、「生活に役立つ」ハーブたち
―—そもそも、ハーブとはどのようなものなのでしょうか?
林 真一郎(以下、林):ハーブとは、「生活に役立つ香りのある植物」だと言われています。特に大切なのは「生活に役立つ」という部分です。つまり、食べたら死んでしまう植物や、8000m級の山の上にあるような気軽に採取できない植物はハーブとは言いません。はじめに人の暮らしがあって、その生活に役立つことが重要。有用植物という表現が近いかもしれませんね。
ラベンダーやルイボスなどハーブとしてよく知られるものだけでなく、実はにんにくや大豆なども不調の改善に有効な成分を含んでいるハーブの一種。食品ととても近いもので、垣根はほとんどないんです。それから、ハーブのなかでもヘルスケアを目的として使うものは、メディカルハーブと呼ばれています。ハーブは食品と薬品の間のような存在と言えますね。
——食用としても、薬用としても使える。まさに「有用」なんですね。
実はハーブって、現代の薬の生みの親なんです。 現代の病院で使われる薬のうち、およそ4分の3はハーブがもとになっています。病院で使われるような薬はけっこう新しいものが多くて、頭痛薬や解熱剤に使われることで有名なアスピリンでも120年くらい、幅広い症状に使われる抗生物質のペニシリンで100年くらいしか歴史がないんです。それまでの人間は植物に頼って怪我や病気を治してきていたわけですから、ハーブと薬は一直線上。僕としてはとても自然なことだと思っています。
——植物を使って身体の調子を整えるという意味では、漢方と似ているように思いました。ハーブとの違いはありますか?
ハーブと漢方は非常に近い存在です。ハーブが日本で出てきたばかりの頃は、「西洋漢方」とも呼ばれていたくらい。東洋が漢方、西洋でハーブと、どちらも伝統医療の領域です。あえて違いを挙げるとすると、漢方は根などのわりと堅い部分、ハーブは花や葉の部分を使います。それから、法律において漢方は医薬品分類、ハーブは食品分類という違いもありますね。
ハーブの個性ある効能
——メディカルハーブの使用方法を教えてください。
メディカルルートでよく使われるのは、乾かしてハーブティーにしたり、香りだけを取り出してエッセンシャルオイルとして使ったりする方法です。
あまり知られてはいないんですけど、ハーブの研究は進んでいて、ハーブの効能についてはイギリス、ドイツ、フランスを中心としてかなりの量のエビデンスがあります。例えば、ドイツではハーブの安全性や効能を審議する「コミッションE」という委員会が政府によって設置され、ハーブが公的に薬として用いられています。日本ではおしゃれなものというイメージが強いように思いますが、実は地に足がついた、確固たる土台がある分野なんです。
——その効能とは、具体的にどういったものなんでしょうか?
まず、ハーブに共通する効能に、抗酸化作用があります。ハーブの種類によって強い弱いはありますが、抗酸化作用のないハーブはありません。酸化にあらがうということなので、細胞と酸素がくっつくのを防いでくれるわけですね。食べ物の場合、酸化すると腐るんですが、人間の場合は「老化」します。私たちは酸素を吸って生きてますから、どうしても酸化してしまう。
——えぇ、わからないです。
実は人間の身代わりとなって、自らを酸化してくれるということなんです。ハーブの成分はとても酸化しやすいので、私たちの老化の原因となる活性酸素を引き受けてくれる。それが、体の外側だとシワなどを防ぐ美容面での効果、内側だと生活習慣病予防などの健康面での効果になります。よく、ヘルス&ビューティーと言いますが、そのどちらに対してもちょうどよく作用してくれるのがハーブです。
それにプラスして、ハーブはそれぞれ個性ある効能を持っています。例えば、カモミールの効能は抗炎症作用。他にも、ホルモンを調整するハーブや、免疫力を向上させるハーブなど、非常にたくさんの種類がありますから、幅広い効能が期待できますよ。
再び注目されてきたハーブの「穏やか」さ
——ハーブによるヘルスケアの良さはなんでしょうか?
「全体的に副作用も少なく、「穏やか」です。つまり、産婦人科に通う方や、がん治療中の方、高齢者など、体の弱い方に対しても安全だということ。それから、予防医療に役立ちます。病気になってから治療するのではなく、継続して使用することで日々の健康を保つということです。
——「穏やか」というのがハーブの特徴なんですね。
そうですね。薬は強いためにここ一発ではとても頼りになるんですが、強いだけに、副作用が大きい場合もあってバランスを取るのが難しい。ハーブは効き目も「穏やか」なんだけど、効果がないということではないですから。ハーブはバランスを整えてくれますね。
例えば、血圧を下げる薬は血圧を下げすぎてしまうこともありますが、ハーブは下げすぎてしまうことはありません。人間のバランスに合わせて、ちょうどいいところにもっていってくれます。人間の体には自分の力で病を治そうとする自然治癒力と、状態を一定に保とうとする恒常性が備わっていますが、不健康なときはそのシステムが働きにくくなってしまうんですよね。ハーブはそこに作用してくれると思います。
——体に備わったシステムが妨げられるから不調が起きてしまう。
システムが働かないと、ホルモンバランスや自律神経の乱れ、免疫力の低下などが起きますよね。その大きな原因となっているのがストレスです。
——現代のストレスの問題にも寄り添ってくれるのがハーブなんですね。
ハーブは医療のなかでようやく見直されてきています。長い歴史のなかで見れば、薬局で処方されるような薬が出てきたのはここ最近のことなんです。ハーブに代わり薬が登場したときは、「魔法の弾丸」と言われて、これでもう地球上のすべての病気がなくなると期待されましたが、残念ながらそうはならなかった。「近代医学の壁」とも言われますが、薬では治療が難しい心の病が出てきて、壁にぶつかってしまったんですね。そうしたときに、昔の医学であるハーブや香り、マッサージのような五感に働きかける「穏やか」な医療がフィットするんじゃないかと見直されてきた。今は臨床応用も徐々に進んできています。ですからここ最近のハーブに対する注目は、リバイバルと言っていいのかもしれません。
——新たな病気の登場により、医療に対する考え方も変わってきているんでしょうか?
もちろんです。医学は変わっていくものだと思います。
人間の体と心をまとめてを見ていこうとする、「ホリスティック医学」という概念があります。ホリスティック=全体という意味。体の病気であっても背後には心の問題があるかもしれないし、仮に調子の悪い臓器があったとして、単にそこだけを部品のように取り換えればいいわけじゃないという考え方。これは、目に見える体だけに注目しがちな現代医学に対する反省から始まった医学なんです。
でも、決して反・現代医学ではないんですよ。現代医学もハーブのような医療も使用することで、体と心の両方に対応した適切な治療ができるようにすることがホリスティック医学の概念と言えますね。
統合医療という言葉も出てきていますよね。ホリスティック医学と似たような考え方で、昔の「穏やか」な人間や植物が元々持っている力を活かした治療と、効能をギュッと詰め込んだ薬でビシバシと治療する「強い」現代医学の治療と、その両方を視野に入れて組み合わせて使う医療。
もちろんハーブも万能ではないので、適材適所で場合によっては現代医学の薬と併用する。さらに言うと、その方法を自分で選ぶという部分が統合医療の本質だと思っています。日本だと医者に言われたことは絶対のような雰囲気がありますが、「私はこれをやりたい」と選択できていいはずだと思うんですよね。
自分の体は自分で健康に。日々の暮らしで力を借りる
——ここ最近、お店に来られる方も増えていると伺いました。
コロナ禍があってから、日々の暮らしの大切さや、免疫を高めておくことの重要さが広まったじゃないですか。それもあって、日頃から取り入れて予防に資することができるハーブへの関心は高まっていると思います。
それから高齢者の不調に対しても。年を取るとどうしても不調になることが多いですが、薬だと強すぎることがあるんですよ。夜、トイレで起きたときに睡眠薬の副作用である筋弛緩によるふらつきが起きて、転んで寝たきりになってしまう場合など、本当に危ない。超高齢化の傾向は続きますから、穏やかな医療も徐々に進んでいくと思います。
お店にいらっしゃる方も増えています。以前は圧倒的に女性の方が多かったんですが、最近は若い男性もいらっしゃいますね。やっぱり、体の不調をきっかけとしてハーブについて学び始める人が多いです。統合医療の話で出たように、自分で自分の健康を管理することが大切ですから。実はハーブって日本人にも取り入れやすいんですが、薬としてのハーブは日本人にとってなじみが薄いですし、きっかけがないとなかなか気づけないですよね。
——日本人にも取り入れやすい、というのはどうしてですか?
日本人はお茶をたくさん飲むので、その種類をハーブティーに変えるというのがひとつ。それから、日本人は毎日湯に浸かる文化がありますから、お風呂でも取り入れやすいというのがもうひとつ。湯船にエッセンシャルオイルを垂らしたり、ハーブを浮かべて揉み出したり、ハーブの石鹸なんかもあります。女性だと化粧品から取り入れている方も多いですね。
日本では、医療目的のハーブと嗜好品としてのハーブが縦割りで分かれてしまっています。それを一度横軸にして、朝起きてから夜寝るまで、あるいは春夏秋冬という季節のなかで、生活に合わせて植物の力を取り入れていくというのが理想的だと思います。ハーブに対して敷居が高いと思われることも多いですが、昔から自然に即した生活で植物を暮らしに活かしてきたのが日本人なので、生活に役立つ身近なものとして取り入れてもらえると嬉しいですね。
■グリーンフラスコ自由が丘直営店
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執筆:山口結子
撮影:持田薫
編集:三浦玲央奈(株式会社ツドイ)