「植物は、究極のインテリア」。100種類もの緑を楽しむ1DKの部屋づくり | ボタニカルライフスタイルマガジン - BOTANIST Journal

BOTANIST Journal 植物と共に生きる。

BOTANIST journal

HOW TO 06

「植物は、究極のインテリア」。100種類もの緑を楽しむ1DKの部屋づくり

東京・三軒茶屋にあるレトロなマンション。その一室で、100種類もの植物と暮らしている人がいます。都内で複数のハウススタジオを経営している、SHINPEIさんです。
植物と生活が見事に調和した圧巻の空間。ご自宅に伺いお話を聞くと、暮らしを楽しむためのたくさんのヒントが見えてきました。

12月上旬のお昼過ぎ。三軒茶屋にあるマンションの一室を訪ねると、SHINPEIさんは笑顔で出迎えてくれました。

「ようこそ。ちょうど今の時間は、日がたっぷり射していてきれいですよ」

言葉通り、部屋は太陽光であふれ、温かな雰囲気。靴を脱いで上がると、思わず「わあ……」という声が漏れます。



そこかしこに置かれた、個性あふれるたくさんの鉢植え。壁や天井にも、植物がつるされています。そして、レコード、本、ギター。壁には絵画やポストカードが。キッチンやベッドが放つ生活感が、なんとも心地よく感じられます。

「この部屋にある植物は100種類くらい。大きいものから小さいものまで、気に入ったものばかりを集めました」

これだけ多くの植物を育てるなんて、さぞ植物に詳しいのだろう。そう思って伺うと、SHINPEIさんは優しく首を横に振ります。

「植物は大好きですが、詳しい知識は持ち合わせていないし、勉強もしていません。形や見た目で、いいなと思ったものを選んでいます。僕にとって、植物はどこまでもインテリアなんです」

SHINPEIさんが引っ越してきたのは7年前。空き部屋を内覧したとき、「ここに植物をたくさん置きたい」という衝動に駆られたそう。

「部屋を見た途端、イメージが浮かんだんです。周りに高い建物がなく、光がたっぷり入ってくる部屋。植物を置いたらものすごくマッチするだろうな、と。棚やソファをここに置いて、植物はこう配置して……とアイデアがどんどん見えてきました」




入居後、頭に浮かんだ「理想の景色」を再現するかのように、部屋を整えはじめました。棚は、DIYで製作。オブジェや間接照明を集めつつ、気に入った植物を買い集めていきます。

「当時は、毎週のように植物のセレクトショップに行っていました。『増やしたい』 『収集したい』という気持ちはなくて、あくまで空間づくりが目的。事前に頭の中で植物の形を思い描き、それに合うものを探して買うというスタイルです」

これだけ植物があると、お世話が大変そう。しかしSHINPEIさんは、負担を感じていないようです。

「毎日水をやると決めていたら、重労働になると思います。でも僕の経験上、毎日あげるのはあまり良くない。土が乾いたらたっぷりとあげるというメリハリが大事です。個体ごとに乾くリズムが違うので、最初は失敗もしました。今はもう、葉っぱを見るだけで、どのくらいの頻度で水を欲するタイプかがわかります」



    原体験は、少年時代の秘密基地

植物をインテリアとして愛するSHINPEIさん。その原体験は、小学校時代にさかのぼります。

「僕は広島の田舎のほうで育ったんです。すこし歩くと木が生い茂っているエリアがあって、小学生時代はそこで友だちと秘密基地を作っていました。子ども心に思ったのは『自分だけの空間』って最高だなってこと。何を置いて、どんな雰囲気にするか、好きにデザインできることにワクワクしたんです。その感覚は、僕の中にずっとあります」

自分だけの家をようやく手に入れたのは、大学時代。入学と同時に実家を出て、一人暮らしを始めました。

「周囲のみんなが車を買っているお金で、僕は部屋を借りました。地元の大学だったから実家から通うこともできたんですが、どうしても自分だけの場所を持ちたくて。当時はお金がないから、インテリアにはこだわれませんでしたが」

大学では経済学を専攻。しかしインテリアへの興味が尽きず、卒業後にインテリアの専門学校に通います。プロダクトデザインや店舗デザインなど、幅広い空間づくりのノウハウを学びました。




「その後、一度飲食の会社に就職したのですが、数年経ってやっぱりインテリアの仕事がしたいと思い、地元のインテリアセレクトショップに就職しました。植物を扱っているお店だったから、その影響で僕の家にも植物が増えていきました。
最初に買ったのは、確かサンスベリア。その美しいフォルムに、植物のインテリアとしての可能性を教えてもらいました。ひとつとして同じ形の個体はないし、見ているだけで自然の力をわけてもらえる。しかも、どんなテイストのお部屋にも合う。これぞ究極のインテリアだな、と」


ラジカセの向かって左側に置いてある葉がまっすぐ天に向かって伸びている植物がサンスベリア

数年後、勤務していたショップが閉店したのを機に、ワーキングホリデーで単身フランスへ。住む場所も決めないままに、パリの街に降り立ちました。

「若さゆえの、勢いまかせな行動ですよね。でも、パリに行って本当によかったです。こんなおしゃれな世界があったのかと、とても刺激的でした。近隣のヨーロッパ諸国もめぐりながら1年間滞在。感性が大きくブラッシュアップされました」

帰国後は、上京してインテリアデザイン事務所に入社。その頃のSHINPEIさんは、なんとミニマリストだったそう。


https://x.com/shinteriortokyo/status/1309480096189669376?s=20
「ビジネスに興味を持ち、『思考をクリアにするために断捨離しよう』ということで、まっさらな部屋で暮らしていました。でもあるとき、雑誌『POPEYE』のインテリア特集を見ていたら、僕が好きな写真家のライアン・マッギンレーが出ていて。彼が暮らすニューヨークの自宅に、雷が落ちたような衝撃を受けました。
生活感があるのに、物の配置や色使いがおしゃれで、圧倒的にかっこいい。『お前は何をやっているんだ、もっと空間づくりを楽しもうよ』と言われた気分でした」

こうして空間づくりへの思いが再燃。今の部屋に出会い、植物と暮らしはじめたのです。

    植物と人にも「相性」はある

SHINPEIさんのお気に入りの定位置は、テーブル手前のソファ。座って植物を眺めるのが、至極の時間だといいます。

「ソファの前にある区画がすごく好きなんです。植物が密集していて、美しい。いつも夕方頃から音楽をかけ、ビール片手にうっとり鑑賞しています。夜は間接照明をつけて、また違った雰囲気で楽しめるんですよ」



DIYした本棚、照明もご自身で取り付けられたそう。「昼も夜も、一日中飽きない部屋なんですよ」とSHINPEIさん

そんなSHINPEIさんに、植物と暮らす上でのマイルールを聞くと――。

「『枯らしてしまった植物はもう買わない』です。枯らしてしまうと悔しくて、ついリベンジしたくなる。でも、植物と人にだって相性があると思うんです。たとえばアマゾニカは、見た目が大好きでどうしても家に置きたかったけれど、3回も繰り返し枯らしてしまいました。きっと縁がないのだなということで、もう手を出さないようグッとこらえています」

その結果、相性のいい植物たちが集まっている今の部屋。実はもう「ほぼ完成形」なのだそう。

「季節ごとに若干の入れ替えをすると思いますが、絵でいうとほぼ描き上げてしまったような状態です。とはいえ、最近新しく迎え入れたものもありますよ。それがこのベゴニア。毒々しい見た目がユニークでかわいいなと思いました。テーブルの上の一等地に置いています」


白いスポットの葉っぱがかわいい鉢植えがベゴニア

    植物をひとつ置くだけで、暮らしはもっと楽しくなる

SHINPEIさんは現在、都内で2軒のハウススタジオを運営中。植物と生活をマッチさせた空間は、雑誌やテレビの撮影場所として人気です。


取材の最後にスタジオのひとつを見せてもらいました。光と植物が素敵な空間です

「おかげさまで好評で、今は3軒目を企画しています。お客様が一歩足を踏み入れたときに感動してくださると、すごくうれしいんですよね。これからも、自分のセンスで空間づくりを楽しんでいきます」

最後に、初心者でも取り入れやすい植物を教えてもらいました。

「僕が最初にこの家に迎え入れた植物は、フィカス(ゴムの木)です。丈夫で育てやすいから、初めての方におすすめ。大きいので、お部屋の雰囲気が一気に変わりますよ。サイズ的に難しいという場合は、手のひらに乗るようなちいさな鉢からはじめるのもいいと思います。家電まわりやキッチンにちょこんと置くだけで、気分は上がるものです」


中央にある丸い葉っぱの鉢植えがゴムの木

自分の「好き」に、とことん向き合ってきたSHINPEIさん。植物がある空間の魅力を、これからも発信していきます。



***
執筆:安岡晴香
編集:安岡倫子
撮影:芝山健太