PEOPLE
揺らぐ心身をそっと整える、香りをまとった一杯。自分との対話時間がナチュラルな毎日を育てていく
2025.12.25
BOTANISTは10周年を迎え、「答えはきっと自然の中にある。」という新たなメッセージを掲げました。どんな環境でも力強く芽吹く植物のように、自分らしく自然体で生きる人たちを応援しています。
周囲に流されず、等身大で生きる――そんなナチュラルな人生に憧れはするけれど、実際は日々の忙しさに追われ、自分の心に目を向ける余裕すらない……。そう感じる方も多いのではないでしょうか。
そこで今回お話を聞いたのは、堀江麗さん。人々の日常に自分と向き合う時間を届けたいという願いから、「飲む瞑想」を意味する「DRINKING AS MEDITATION」をブランドの核に、クラフトジンブランド「HOLON」を手がけています。
彼女の言葉に耳を澄ませていると、この時代を自分らしく楽しむためのヒントが静かに浮かび上がってくるようです。
目次
忙しい日々に、自分と向き合うひとときを。 深呼吸できる香り高いジンをつくった理由
「今日はよろしくお願いいたします。楽しみにしていました」
優しい笑顔で挨拶をしてくれた堀江さん。目の前には、おしゃれなジンのボトルが置かれています。

「HOLON」は、「心と身体の調和」をテーマに、2020年に堀江さんが立ち上げたクラフトジンブランド。ストレスや疲れを抱えやすい現代人に、「ととのう時間」を届けるジンとして愛されています。
「シグネチャーフレーバーの『HOLON GIN ORIGINAL』は、東洋のハーブやスパイスを組み合わせて作りました。他にも、季節やテーマに合わせたさまざまなジンを展開しています。どれも、自分と向き合う静かな時間や、お友達と語り合う時間におすすめです」
堀江さんは、まっすぐにこちらの目を見ながら丁寧に言葉を紡ぎます。
「今手元にあるのは、予約販売中の金木犀のジンです。少し、飲んでみますか?」
堀江さんは、おすすめだという炭酸割りを作ってくれました。一口いただくと、金木犀の神秘的な香りが花に抜け、驚くほど豊かな味わいです。
「私、金木犀の香りがすごく好きで。いつか金木犀でジンを作りたいと、HOLONを立ち上げたときから思っていたんです。こうして今年実現できてうれしいです」


楽しそうにジンについて語る堀江さんですが、意外にも、もともとはお酒が得意ではなかったそう。
「会社員時代は、飲みが少し苦手でした。飲めない側の人って輪に入りづらかったりするじゃないですか。どうやって場に馴染めばいいんだろうと戸惑うことが多かったです」
そんな堀江さんの価値観を大きく変えたのが、ある夜ふらっと立ち寄った、渋谷の高架下での出来事でした。
「テントみたいなお店があって、気になって一歩踏み入れてみたんです。すると、店内には世界中のジンのボトルがずらり。戸惑う私に店主の方が、ボトルを見ながら、バラが入っているイギリスのジンのこと、ベルガモットが入っているフランスのジンのことなど、一つひとつ丁寧に教えてくれて。そこからボトルの香りを嗅いで好みの一本を選び、相性のいいトニックウォーターを合わせてもらいました。まるで香水を選ぶみたいな体験ですよね。
選んだジントニックを飲んだときのことは、今でもはっきり覚えています。静かに意識がほどけていくような、まるで瞑想の中にいるみたいな感覚でした」
こんなに豊かなお酒の時間があるんだ、と衝撃を受けた堀江さん。そこからジンの世界にのめり込んでいきます。
「『まず100種類飲んでみよう』と決めてテイスティングノートをつけ始めました。そこからどんどんハマって、月に1回のペースで、友人のバーやポップアップスペースでジントニックのイベントを開くように。お酒がそこまで得意ではない友人たちが『これなら飲める』『ジンって薬っぽいイメージだったけど、全然違う』とポジティブに反応してくれたのが印象的でしたね」
こうして、ジンの魅力を伝える楽しさを知っていきます。やがて縁がつながり、東京リバーサイド蒸溜所(エシカル・スピリッツ)の立ち上げプロジェクトに参画。クラフトジンの世界に本格的に身を置くようになりました。

主役は「香り」。畑で出会った植物の息吹を、ジンに溶け込ませる
堀江さんは、かつて感動したジンの「香り」を何よりも大切にしながら蒸留に向き合っています。
「私のジンづくりの中心にあるのは、植物の香りです。だから、HOLONのジンの多くは、味わいを保ちながら口あたりをよくするため、一般的なジンより度数低めの約35〜40度で作られています。トニックウォーターや炭酸水で割ると、7〜9度ほどの軽やかなアルコール感で楽しめます」
できる限り、顔の見える農家さんと一緒にボタニカルを選ぶのも、こだわりのひとつ。
「月に一度は森や畑を訪ねています。畑に行くと、『生姜にも葉っぱがあるんだ』『花が咲くんだ』など、初めて知ることが多くておもしろいんですよ。種があって、茎があって、葉があって、花が咲いて……という植物の全体像を間近に見ながら、インスピレーションを広げています」
ジンに惚れ込む理由は、ほかにも。
「生姜の葉や柑橘の皮など、これまでロスになっていた部分を素材として活かすケースもあります。料理だと『おいしいところ』を使いますが、ジンは『香りのいいところ』を使う。食の現場では通常捨てられてしまうような部位に、新しい居場所を見出だせることも多いんです。大切に育てられてきた作物を無駄にせず活かせることに、喜びを感じます」

HOLONをつくっている蒸溜所。大きな釜に素材を入れて、蒸留されたジンの試飲を繰り返して、味を決めていくそうです。
植物に思いを馳せながら、足を動かし、着想を広げ、新しいジンを定期的に生み出します。
「ジンを作るときの着想には、2パターンあります。ひとつは、この植物を使いたいという素材起点のパターン。先ほどお話しした金木犀がその例です。
もうひとつは、テーマありきで作るパターンです。最近、『雨』と『晴』というシリーズを作りました。これは、自分の体調やメンタルが天気によって変わることに気づいたことから発想しています。天気の変化に、自分の状態を重ねて丁寧にととのえていけるようなジンがほしい――こんな感じで、テーマやコンセプトから着想する商品もあります」
求めている味わいになるまで、植物の配分を変えながら微調整します。試作を重ねる中で「これでいこう!」と決まる瞬間はどんなときなのでしょうか。
「情景が浮かぶかどうか、が基準です。例えば春のジンなら、お花見をしながら仲のいい人たちで集まって飲んでいる場面。冬のジンなら、暖炉のそばやこたつの中のような、あたたかい場所でソーダ割りを飲んでいる場面が浮かぶ。試作しながら、作ろうとしているジンに合う情景がぱっと浮かんだ瞬間、『これはいける』と確信できます」
おしゃれなラベルも、HOLONの大きな魅力。洗練されていて、見えるところに飾っておきたくなります。
「可愛いし、見るとちょっと豊かな気持ちになれる。そんなボトルになるようデザインには力を入れています。扉の奥にしまっておくのではなく、インテリアとして楽しんでいただければ幸いです」
東洋哲学に感動した大学時代。「メディテーションで優しさの連鎖を起こせたら」
音色みたいで可愛らしい響きのブランド名『HOLON』。実は、古代ギリシア語に由来しているそう。
「HOLONは、『全体と部分の調和』を意味する言葉です。都市で忙しく生きる人たちが、一日の終わりにジンを飲むことで、ふっと一息つけたらいいなと。そしてその人がととのうことで、周囲の人との調和が広がり、世の中が少しずつ穏やかで優しくなっていったらいいなと思っているんです」

調和――この言葉を堀江さんが大切にしている背景には、18歳の頃に訪れたインド・ダラムサラでの体験があります。
「大学時代、インドやネパールなどのヒマラヤ文化圏を旅していました。そんとなき、ゼミの先生に誘われて訪れたダラムサラで、ダライ・ラマ法王と2時間ほどお話しする機会をいただいたんです。学生である私たちが用意した問いに、一つひとつ丁寧に答えてくださって。印象的な考え方をたくさん授けてくださいました。以降、悩んだり立ち止まったりするたびに、ふと立ち返り瞑想しながら自分と向き合うようになりました」
この実体験が『HOLON』のコンセプトにもつながっています。
「クラフトジンとともに瞑想(メディテーション)し、心身の調和を保ってもらえたらと思うんです。メンタル面でも体調面でも、不調になったらちゃんと自分と会話して、『原因は何だろう』『今、自分に何ができるだろう』と考えるようにすると、少しずつ良くなっていく。そんな東洋哲学的な考え方を、HOLONと一緒に取り入れてもらえたらと思います」

小さな不調にも目を向けて。毎日のセルフケアも大切に
堀江さんは、とくに同世代の女性たちに、「HOLON」とともにメディテーションをしてみてほしいといいます。
「女性って、特に30代くらいになると心も体も小さな不調を抱えやすいですよね。私も年齢を重ねるごとに、どうしても調子が悪いという日が増えてきました。友人たちも、同じように心身がしんどい日があると話しています。そんなとき、エステやヨガももちろん素敵だけれど、もっと日常的で身近な方法があったらいいなって」
そんなときこそジンを味わい、心を整えているという堀江さん。そんな彼女には、ジンのほかにも、小さなルーティンがあります。
「まずは、お茶です。味わいはもちろんですが、私は淹れる時間そのものが好きで。ポットの中でハーブや茶葉がゆっくりほどけていくのを眺めていると、気分がふわっと緩むんですよね」
アロマやお香も、大切な相棒です。


「リフレッシュしたい日は柑橘、やわらぎたい日は花やハーブの香り……。香りに寄り添ってもらうだけで、不思議と自分が輪郭を取り戻していく気がします。
そして、一日の終わりに欠かせないのが、お風呂の時間です。お風呂は、自分に戻れる大事な場所。湯船の中で肩の力がすーっと抜けて、その日の自分によく頑張ったねと言ってあげられるような感覚があります」
そんな堀江さんに試していただいたのは、「お風呂がまるで森林浴をしているようなリラックスタイムになってほしい」という想いで開発した新商品「森林浴香る 泡ボディーソープ」。
「心からリラックスできる香りでした。白檀のお香のような落ち着きに、森の湿度や木の温度が重なるイメージ。もちもちの泡に包まれながら身体を洗うだけで、まるで森の奥でひと休みしているようでした」

「私は、BOTANISTを、昔から使っているんです。特にシャンプーとトリートメントは、何年も前から愛用しています。最近のお気に入りは、『ROOTH(ルース)』。ウェブサイトの診断『BOTANIST CHECK』でおすすめしてもらっただけあって、今の髪質によく合っていますね。そして何よりジンジャーとグレープフルーツの香りがすごく軽やかで、使うと気持ちまで明るくなります」
大好きな香りに癒やされるほんの数分。その小さな積み重ねが、堀江さんの日常を優しく彩っています。

「自分との対話」がナチュラルな日々をつくる。みんなの日常をより豊かにできたら
BOTANISTは10周年を迎え、「私はナチュラル派」というテーマで、自分にとって本当に必要なもので満たされて生きる人を応援しています。
堀江さんが「自分はナチュラル派だ」と感じる瞬間は——。
「好きなものに囲まれて生きていると感じられるときです。私の場合は『植物を扱う仕事』をしていること。植物は、ずっと昔から変わらずそこにあり、人間に必要な存在です。そういう根源的に大切なものと触れ合いながら、ジンというカタチでアウトプットできる環境に、すごく満足しています」


現代社会では、忙しさや周囲の目を気にして「自分らしくいられない」と感じる人も少なくありません。そんな人に、堀江さんは心から寄り添います。
「気持ちがとてもよくわかります。SNSでみんながキラキラして見えたり、誰かの一言で心が揺れたりもしますよね。
そういう外の情報に振り回されてしまうときって、自分との対話の時間が足りていない状態なのかなと思うんです。そんなときは、お風呂に入るでもお茶を飲むでも、そしてジンを楽しむでもいいので、自分と向き合う小さな時間を設けるのがいいと思います。『自分のコア』が分かっていれば、周りの声は少しずつ気にならなくなっていくはず」
そんな人々のためにも、堀江さんは想いを届けていきます。
「ジンはメディアのような存在。透明な液体の中に、その土地の記憶や作り手の思想が詰まっている感じがして、おもしろいんですよね。引き続き、自分の想いをHOLONを介して伝え続けたいです。
最近は、海を越えてHOLONの魅力を伝える機会も増えています。10月にはロンドンやパリ、台湾で試飲会・販売会を開催してきました。日本の考え方や禅の思想に興味を持つ海外の方々に、HOLONのエッセンスを届けられたら。それが今後の目標です」
最後に、ナチュラルなエネルギーにあふれた堀江さんの原動力はどこからくるのか聞いてみると――。
「豊かな日常を過ごす人が増えたらいいな、というのが一番の願いです。メディテーションや植物の香り、ジンのある静かな時間がきっかけになって、誰かの一日が少しでもととのったら、私もすごく満たされた気持ちになりますね」

instagram:@rei_horie_
撮影:飯本貴子
取材・執筆:安岡晴香
編集:安岡倫子(株式会社ツドイ)