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「本当に必要なものはシンプルでいい」。書道がもたらす”余白”の力

忙しない日々のなかで、気づけば自分を見失うことってありますよね。何が好きなんだろう、何をすれば気持ちが満たされるんだろう……。少しだけ立ち止まって心の声と向き合ってみませんか。
今回お話しを伺ったのは、書道家として活躍する中友香さん。中さんにとってのナチュラルな生き方とは、心に余白を持って日々を過ごすこと。そのために書道は必要不可欠だと言います。『余白』――をキーワードに、自分らしくいられるヒントを探ります。

「書道は仕事に追われる日々を生き抜くための原動力でした」

中さんから指定されたのは大阪にある日本家屋。ここは中さんが生まれ育ったお家であり、現在はアトリエとしている活用されている場所です。普段は東京に住む彼女ですが、集中したい制作期間はよくこちらにこもっているんだとか。作業部屋になっている畳敷きの和室には、藺草(いぐさ)と墨の心地よい香りが漂います。


「書と出会ったのは小学1年生のとき。クラスメイトに誘われて書道教室に通いはじめたのがきっかけです。純粋に書道が楽しくて、『今日は教室があるから』と友達の誘いを断るほど熱中していました。ちょっと珍しい子どもですよね(笑)」

中学生になると陸上部に入部し才能をめきめきと発揮、スポーツ推薦で入学した高校時代はインターハイにも出場しました。将来を期待されるほど優秀な選手でしたが、怪我のため陸上を続けることを断念……。卒業後は担任の先生の勧めで大阪のホテルに就職し、ウエディングプランナーとして活躍されていたそう。そんな多忙な日々のなかで、中さんはどんな風に書道と向き合っていたのでしょうか?

「陸上に専念していた高校3年間以外はずっと書道を続けていて、社会人になっても趣味の一環として書道教室に通っていました。思えば、会社員だった当時の私にとって書道と向き合う時間は、業務に追われて過ごす日々から解放され、自分の心をリセットして新たに踏ん張ることができる原動力のような存在でしたね」


その後、趣味が高じて師範の資格を取得したとき、こう思ったんだそう。

「大好きな書道を仕事にしよう!」

書と出会えたから、人生が豊かになった。だから私も誰かの心を動かす書を届けたい――そう決意し、書道家としての一歩を踏み出すべく会社を辞め上京を決意。最初はアパレルの販売スタッフとして働きながら、自身の書道家としての在り方を模索していきます。そんな彼女の転機となったのは、2019年に訪れたNYのファッションウィークでした。

「上京当時は自分に自信が持てず、書道家と名乗っていいのか躊躇していた時期もありました。そんなとき、NYのファッションウィークの会場で書のデザインを落とし込んだオリジナルTシャツを着用していたところ、『そのTシャツ最高にクールだね』と現地の方に声をかけていただいて。日本の伝統文化である書道に、時代と共に移ろうファッションという文化を掛け合わせることで、書道の新たな可能性を拓くことができるんじゃないかと感じられたんです。改めて、書道の力は言語や国境を越えると実感できましたし、書道家としての方向性を定めるきっかけにもなりました」


いい意味で書の敷居を下げる作品を届けたい

書道家として活動する中で、苦労した経験はありますか?

「うーん……あまり苦労を苦労と思わないタイプなので、正直そういった経験はなくて(笑)。今は書道とファッション、自分の好きなもの同士を掛け合わせて、そこで生まれる新たな発見や想像し得ないものとの出会いをどんな時でも純粋に楽しんでいます」

ファッションブランド「Sillage」とのコラボアイテムたち。手に持っているのは、禅における書画のひとつの『円相』をバックに施したベストです。向かって右は、ブランドアイコンである「象」の文字を墨の濃淡を生かしながら落とし込んだシャツ

「ファッションの一部として楽しんでほしい」と制作した扇子。「夏に扇子で涼をとるって粋ですよね」と中さん

さらりと笑顔で語る彼女でしたが、そのライフスタイルは想像以上にストイックなものでした。

「朝、目覚めるのは大体10時頃。コーヒーや日本茶でカフェインを摂取して気持ちを高め、日中はオーダーいただいた作品を中心に制作します。一日一食が基本なので夕食をガッツリ食べたのち、展示用の作品制作をスタート。そこから深夜2〜3時まで、グッと集中しているときは朝方まで作業してその日を終えます。展示前は10時間以上ぶっ通しで制作することも多いですね」

「私の中では書道とスポーツってすごく似ていると感じていて。スポーツって1日休むと体力が低下してしまうので、完全にオフの日は作らず少しでも走った方がいいと言われているんです。書道も同じく、1日でも筆を握らない日があると、技術や感覚が衰えてしまうように感じるため、基本的には毎日筆を持つようにしています」

まさにその気質はアスリート。幼い頃の情熱のままに書と向き合い、表現の可能性を求めて走り続ける中さん。そんな彼女だからこそ、魂の込もった作品が生まれるのかもしれません。


「伝統ある書道に対して、堅苦しい、とっつきにくいといったイメージを持っている方も多いんじゃないかなと。それをファッションやライフスタイルといった現代的なカルチャーと掛け合わせることで、いい意味で敷居を下げて、書道を身近に感じられるきっかけづくりができないかと模索しています」

「ありがたいことに、私の作品をきっかけに書の世界を知り、人生が豊かになったと言ってくださる方もいて。書は人の心を動かすと信じて活動してきたので、そんな温かい言葉の一つひとつがパワーの源になっています。さまざまな形で暮らしに寄り添う書をお届けできることに、日々幸せや喜びを感じています」

(左)余白の使い方や書の造形に美学を見出した、「挑戦」とは対照的な創作書道の作品「純」(右)力強さと繊細さが同居する、「いくつになっても挑戦し続ける自分でいたい」という思いを込めた作品「挑戦」

書道と向き合うことで生まれる『余白』を糧に

ご自身が追求する書の個性について尋ねると、「力強さや動きに重きを置きつつ、余白を生かした作品づくりです」と中さん。彼女にとっての書道も、生活に余白をもたらしてくれるものだそう。

「私にとって書道と向き合う時間は、自分の心に問いかける瞑想に近しいものがあって。『書は体を表す』ということわざもあるように、書には自分自身の心の動きがダイレクトに現れます。墨汁の香りに包まれながら筆を持つことで、心の穏やかさを取り戻し、ゆとりを持って過ごすことができる。書道は私の心に余白を生んでくれる大切な存在です」



また、健康への配慮から食を重視していると話します。

「独立当初はろくに食事も摂らず、ひたすら制作に没頭していたのですが、ここ2〜3年で健康が一番だと痛感しました。今は食事の時間をきちんと設け、農家を営む実家から送られてきたお米を毎日炊いて、バランス良く栄養を摂っています。心身ともに健康に過ごすことも、自分らしく生きる秘訣なのかもしれません」

最近は、実家の田植えや稲刈りを手伝うことも増えたとか。

「幼少期から無農薬のお米や野菜を当たり前に食べてきましたが、独立して自分と向き合う時間が増える中で、それが当たり前のものではなく、大変な手間や愛情のもとに成り立っているものだと気づきました。 昔は忙しいことを言い訳に、田植えや稲刈りに参加しないことが多かったのですが、今は時間をつくって積極的に参加しています。今後も食に対する感謝の気持ちを忘れずいたいです」

コンバインに乗って稲を刈る中さん(ご本人提供)

中さんが育てた玉ねぎ(ご本人提供)

自然を大切にする『BOTANIST』の考えに共感

これまで何度か『BOTANIST』使ったことはあるけれど、インタビューにあたり改めて調べてくださったそうで。自然を大切にする『BOTANIST』考え方が、自身のライフスタイルにもフィットしていると言います。

「ナチュラルな成分を厳選した製品づくりに、無農薬のお米や野菜にこだわる自分の暮らしと共通するものを感じました!」


今回中さんに使っていただいたのは、スカルプクレンズシリーズのシャンプーとトリートメント、スムースタイプのヘアオイル。

「私は髪の毛が細く、ボリュームが出にくいことが悩みなのですが、スカルプクレンズシリーズは、ペタッとしない軽やかな洗い上がりと指通りの良さがとても気に入りました。 特にお気に入りなのはヘアオイル。今日のヘアスタイルは、昨晩ドライヤーで乾かす際にオイルをつけて以降、朝起きてコームで軽く整えた程度でほぼ何もしてない状態なんです。サッと揉み込むだけで髪の毛にツヤ感とサラサラ感を与えてくれる、使いやすさに感動しています。これなら朝の身支度も楽ちんだし、時短になるのもうれしいですね」

「余談ですが、実は私の母親も『BOTANIST』のヘアオイルを愛用していて、実家に帰った際に『すごくいいよね』と盛り上がりました!」


余白のある暮らしが、ナチュラルな自分をつくる

書道を通して自分と向き合うことで、物事の本質が見えるようになってきたという中さん。必要なもので満たされたナチュラルな自分であるために、読者が実践できそうなことはありますか?

「やはり心に余白を持って暮らすことですね。忙しいときこそ自分に向き合い、心の整理整頓ができるようになれば、どんな状況下でも自分らしさを忘れずにいられるんじゃないのかなと。余裕がないときほど、あれもこれもと足し算をしてしまいがちですが、自分にとって本当に必要なものはもっとシンプルなんです。それを理解することで、全てがいい方向へとつながっていくのではないでしょうか」

「わたしにとってそのひとつは大好きな書道ですが、みなさんにとってもそんな存在がきっとあるはずで……自分の好きなことはなんだろうか?自分にいま何が足りてないんだろう?と、心と対話してみてください」



そんな中さんは、ナチュラルな自分がブレそうなとき、どのように乗り越えているんですか?

「あまりないのですが、強いて言うなら年に何度か訪れる繁忙期は、制作中でも心に余裕がなくなってきたと感じることがありますね。そんなときこそ自分を見つめ直し、心や身体が何を求めているのか、何が足りていないのか、しっかり問いかけるようにしていて。疲れていると感じたときは、好きなものを好きなだけ食べたり好きなことだけをする時間をつくったり、とことん自分のご機嫌を取ります。オン・オフの切り替えをつくることで、またまっさらな気持ちで制作活動に取り組めるようになるんです」

日々に追われ、自分のことは後回しにしがちですが、自分に向き合うことが大事だと改めて身に染みたインタビューでした。中さんにとっての書道のような、人生に伴走してくれる存在を探すところからまずははじめてみようと思います。


中さんが大切にされている余白という言葉から、白という字を書いていただきました。

「白には、『純粋』や『清潔』といったイメージがあるかと思いますが、私は何色にも染まらない強い意志を感じるのです。そんなブレない心の強さを二本の筆を使って力強く表現しました」

この強い『白』が誰かの心を動かすきっかけになったらといいなと願っています。 instagram:@naka.tomoka



撮影:木村華子
取材・執筆:六車優花
編集:安岡倫子(株式会社ツドイ)