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地元のお茶業者が倒産続き。「自分にできることはないかな?」
インタビュー現場にやってきたカイノさん。スラリとした長身でクールな雰囲気をまといながらも、柔らかな笑顔で話をはじめます。
「よろしくお願いします。今日は、お気に入りの茶器と一緒に、『SA THÉ SA THÉ』の茶葉を持ってきました」

カイノさんが自身の日本茶ブランド「SA THÉ SA THÉ」を立ち上げたのは、新型コロナウイルスが蔓延していた2020年のこと。きっかけは、父親との1本の電話でした。
「静岡にある私の実家では、祖父の代から日本茶の加工や袋詰めの工場を営んでいて、父もその仕事をしています。そんな父が、ある日電話で『長年一緒にやってきた日本茶農家さんや販売店さんが、コロナのせいでどんどん事業をたたんでいる』と教えてくれたんです」
先の見えない閉鎖的な状況の中で聞いた、父親の寂しそうな声。「自分にできることはないだろうか」と、カイノさんは考え始めます。
「考えてみれば私自身、大学で上京して以来、若い人が日本茶をあまり飲まないことにもったいなさを感じていたんです。もし今、自分が若い世代に日本茶の良さを提案できたら、コロナで落ち込んだ業界を少しでも盛り上げられるかも。そう思って、とりあえず動いてみることにしました」

美味しい日本茶をプロデュースして、ファンの人たちに飲んでもらおうと決意。さっそく、地元静岡の農家や販売店と連携し、ティーバッグに入った水出し用の冷茶をプロデュースしました。
「普段日本茶を飲まない人にこそ届けたかったんです。だから、ティーバッグを1~2個ボトルに入れて置いておくだけで水出し冷茶が完成する、気軽な商品を作りました」
いざ販売してみると、うれしい反響が続々と寄せられます。「久々の日本茶で、美味しかったです」「ホットは出さないのでしょうか?」。当初は、水出し冷茶を売ったら終わりの単発企画のつもりでしたが、ニーズに応えるかたちで、煎茶、ほうじ茶、和紅茶……とラインナップを増やしていきました。

「そこで『SA THÉ SA THÉ』というブランド名を付け、本格的に活動を始めることにしました。このブランド名には、私なりのメッセージがつまっています。まず、日本茶の時間を日常“茶”飯事にしてほしいという意味を込め、『サ』という音を入れました。そして、フランス語で『SA』は『彼女の』、『THÉ』は『お茶』という意味。誰かのためのお茶でありたいという思いも重ねています。また、日本ではなにかを始めようとするときに『さてさて』と言いますよね。一息ついて気持ちを切り替えるようなタイミングに、このお茶を飲んでほしいという願いも込めました」
それから約5年。カイノさんは『SA THÉ SA THÉ』を通して、多くの人に日本茶の魅力を伝え続けています。
「実際に茶葉を買ってくださった方から、報告のメッセージが届くことが多々あるんです。たとえば、『お茶に興味が湧いたので、農家のECサイトで初めて茶葉を購入してみました』『日本茶のカフェに行ってみました』など。日本茶と出会い直すきっかけになれたようで、うれしく思います。
また、静岡からも温かい声が届きました。仕入れ先の契約農家さんが、『東京という場所でうちのお茶を売ってくれるのがうれしい』と喜んでくれているそうで。直接お話しをする機会はないのですが、販売店さんを介してお聞きし、やってきてよかったなという思いでいっぱいになりました」

怖さを感じるより先に、「楽しそう!」で体が動く
小さなきっかけからアイデアを膨らませ、思いを形にしてきたカイノさん。その頼もしい行動力はどこから来るのか。新しい世界に飛び込む怖さはなかったのか。聞いてみると、カイノさんはふわりと笑います。
「昔から、ちょっとでも心を動かされたら、勢いで行動に移してしまう性格なんです。思えば、モデルを始めたときもそうでした。上京したタイミングで始めたアパレルショップのアルバイトで、業界関係者から『撮影のモデルをやってみない?』と声をかけられたんです。私は中学の頃からファッション誌をたくさん買っていてモデルに憧れがあったので、思い切って挑戦してみることに。そしたら、とっても楽しくて。そのまま勢いで事務所を紹介してもらい、履歴書を送って、本格的に職業としてモデルを始めることになりました」
あれこれ考えるより、まず「楽しそう!」が先立つのだそう。お茶の仕事を始めるときも、怖さはなく、ワクワク感でいっぱいだったといいます。
「でも実際に事業を始めてからは、不安を感じるシーンが増えました。一番気を揉んでいたのは、世間のみなさんに『なんでモデルが日本茶の仕事をしてるの?』と思われてしまうこと。そこで、違和感を払拭するために、なぜ私がこの取り組みをするのか、わかりやすい言葉で伝えようと努力しました」
日本茶の魅力を多くの人に伝えたい――ブランドを始めたときのまっすぐな気持ちを、紙やスマートフォンのメモに記しました。見返しては手直しを重ね、ようやくできあがったメッセージが、『SA THÉ SA THÉ』のWEBサイトに掲載されています。

スイッチをオフにして、本音とひたすら向き合う
小さい頃から日本茶を飲んできたカイノさんですが、今もお茶のありがたさを日々感じているといいます。
「仕事で忙しくていっぱいいっぱいなときこそ、お茶の時間に救われるんです。たとえば撮影が立て込む時期は、プライベートでもついスイッチがオンの状態になりがち。それでなんだか疲れてしまったときにお茶を飲むと、心とからだをふっと緩められて自分を取り戻せるんですよね」
「お茶を片手に自分と対話する時間」は、モデル業を続ける上で欠かせないそう。

「モデルの仕事って、自分自身を深く知っていないとできないんです。何が好きで、何が嫌いなのか。何を食べたら体調がわるくなるのか。何をしたらむくむのか。今の自分はどんな気持ちで、どんな顔をしているのか。体型や表情を管理するためには、精神的なことからビジュアル面まで、自分自身を把握していなくてはなりません。私がモデルの仕事を続けられているのは、お茶の時間があるからかもしれませんね」
カイノさんのルーティンは、朝は和紅茶、おやつの時間に緑茶、そして夜ご飯と一緒にほうじ茶を楽しむこと。時には、日本茶カフェに行ったり、イベントに足を運んで茶師が淹れる一杯を飲んだりしながら、自分自身と日々コミュニケーションを重ねています。
「まとまった空き時間があるときは、お茶を飲む代わりに、山や公園に出かけることもあります。気持ちのいい空気の中で、自分が今何を感じているのか、何をやりたいのか、そのためには何が必要なのかなどを考える。自然の力って不思議ですよね。気持ちが浄化されて、むき出しの心が見えてきます」

『BOTANIST』の香りで、のびのびと等身大に
お風呂の時間も、自分と向き合う大事なタイミングのひとつだそう。今回はカイノさんに『BOTANIST』の製品を使ってもらいました。試してもらったのは、モイストタイプのシャンプーとトリートメント、そしてヘアオイルです。
「どれもフルーツ系の甘い香りで、気に入りました。強すぎず、ほんのり香るのがお気に入りです。ショートカットで広がりやすい今の髪型にぴったり。翌朝もいい感じで、身支度が楽になりました。植物由来の自然な香りに包まれると、自分が等身大に戻っていくような感覚になれますね」

『BOTANIST』の使い心地に満足してくれた様子のカイノさん。実は、『BOTANIST』が世に出始めたときのことをよく覚えているそう。
「当時は、ナチュラルなヘアケア用品がドラッグストアなどに並んでいるのが珍しかったので、印象に残っています。気になりつつもなかなか手に取る機会がなく、今回ようやく試せてうれしかったです。『BOTANIST』のホームページも見てみたのですが、自然をとても大切にしている素敵なブランドなんですね。私も自然が大好きなので、ブランドとしての考え方に共感しました」
カイノさんは、自宅に植木鉢がたくさんあり、休日は高尾山に登るなど、あふれる自然愛の持ち主。共感していただけて、うれしい限りです。
一息つける時間を、意識的に作ってみて
そんなカイノさんが描く、これからの展望は。
「今はまだ漠然とした夢ですが、将来的には、店舗や茶室を持ちたいんです。拠点があると、多くの人たちに日本茶の良さを伝えられると思うので。そのためにも、まずは『SA THÉ SA THÉ』というブランドをもっと育てていきたいです。日本茶はとても奥が深く、私はまだまだ勉強中。日本茶検定の資格をとるなど、まずは知識を増やしていこうと思います」
「楽しそう!」が先立つ性格を生かし、新しい取り組みに、どんどん挑戦していきます。
「日本茶は、私が私らしい人生を描くために欠かせないアイテム。お茶の力を借りて素の自分に立ち返りながら、今後もやりたいことをまっすぐ、ひたむきに実現していけたらうれしいです」


自分の本音を知り尽くし、ナチュラルな生き方を体現しているカイノさん。でも、つい自分を見失い、疲弊してしまう人の気持ちもわかるそう。だからこそ、都心で忙しなく暮らす若い人たちに、日本茶の時間を取り入れてほしいとすすめています。
「日本茶を始めるというと難しく感じるかもしれませんが、構える必要はありません。まずは、お気に入りの茶器を揃えるところから始めてみてください。きっと自然にテンションが上がって、いろんな茶葉を揃えてみたくなると思うんです。そしたら、近くの日本茶専門店に行ってみてほしいです」

商品パッケージの裏などに、目安の湯量と茶葉の量、お湯の温度などが書いてあります。その淹れ方はお茶屋さんのおすすめだそう。
「なのでまずは、記載の通りに飲んでみてください。そのあとで、お湯を熱めにしたりぬるめにしたり、茶葉の量を変えたりすると、味や香りの変化を感じ、自分の好みが見えてきます。すると楽しくなって、今度は『あのお茶屋さんで茶葉を買ってみよう』とか『お茶菓子も買ってこよう』みたいに、興味が広がっていくものです」
日本茶を暮らしに取り入れ、救われる人が少しでも増えたらと願っています。
「今の世の中、ゆったりした時間を確保るのはなかなか難しいですよね。でも1週間に1回とか、2〜3日に1回だけでもいいので、一息つける時間を意識的に作ってみてほしいです。きっと毎日がちょっとだけ豊かになるはずです」

instagram:@kainoyu
撮影:芝山健太
取材・執筆:安岡晴香
編集:安岡倫子(株式会社ツドイ)