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PEOPLE 23

Cinema × Sustainable #1「自分に合ったものをチョイスする。それが私のサステナブル」

ここのところ聞かない日はない「サステナブル」という言葉。しかしはたして私たちは、それを自分の暮らしに落とし込み、実感のあるものとして理解しているでしょうか? 「Cinema × Sustainable」では、サステナブルがテーマとなっている作品を毎回ひとつセレクト。いま注目のクリエイターの方と一緒に鑑賞し、発見、共感、疑問まで含めて、自由なトークを展開します。初回である今回は、フードディレクターのKAORUさんをお迎え。映画『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』についてお話します。

KAORUさんは、ふだん「SDGs」を意識していますか?

KAORU: フードスタイリストという職業柄、その食材がどんなふうにして私たちのもとに届くのか、なるべく知るようにはしています。
天候や潮の流れによって、あがる魚がまったく変わってくること。野菜でも、いっきに収穫するのではなく、安定供給するためにはもう少し成長を待たなければいけない場合があることも、生産者さんから教えてもらいました。
でも撮影のときは、どうしても旬より早いタイミングで食材を用意しなきゃいけなかったり、廃棄せざるを得ないこともある。作品づくりのうえでは、そこの兼ね合いがすごく難しいですね。

作品あらすじ

『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』© 2018 FarmLore Films, LLC

ロサンゼルスで暮らしていた、映像クリエイターのジョンと、料理家であるモリー夫婦。愛犬トッドの鳴き声が原因で、アパートを追い出されてしまう。ふたりは伝統農法で食べ物を育てるため、郊外へと移り住むことを決意。資金を集めて、200エイカー(東京ドーム約17個分)の土地を手に入れる。荒れ果てた農地の再生からスタートし、自然の厳しさに翻弄されながらも、命のサイクルを学んでいくふたり。動物や植物たちと共に美しい自然農場を作りあげていく、7年間を記録したドキュメンタリー。
監督:ジョン・チェスター
出演:ジョン・チェスター、モリー・チェスター、愛犬トッド、動物たち
2018/アメリカ/英語/91分/シネスコ/原題:The Biggest Little Farm/日本語字幕:安本熙生/配給:シンカ /サウンドトラック:ランブリング・レコーズ/協力:eatrip/特別協力:J-WAVE
各配信サイトにて配信中 https://synca.jp/film/83/
配給:シンカ

「循環」があってこそ、世界は成り立っている

−: どんなシーンが印象に残っていますか?

KAORU(以下K): ショッキングでもありつつ、見たあとに新たな価値観が生まれたのが、「死」のシーンでした。
生まれればやがて死んでしまうことも、動物が動物に食べられてしまうことも当たり前。循環しているからこそ成り立つ自然のサイクルなんだということを、映画を見たことで自然と受け入れられたんです。

−: 「死」と同時に、動物の出産シーンなどたくさんの「生」も描かれていました。自然のサイクルの成り立ちを克明に描いていましたね。

© 2018 FarmLore Films, LLC

© 2018 FarmLore Films, LLC

「観察」すれば、どんな仕事もサステナブルに?

−: 映画でも困難な様子が描かれていましたが自然のサイクルを成立させるには、なかなか時間がかかりますよね。

K: 忍耐が必要不可欠ってことですよね。観察して、いろいろ試して、失敗して、別の方法を試してみる、の繰り返し。
でもこれって、どんなお仕事にも言えることだと思うんですよ。仕事がつまらない、うまくいかないからってすぐに投げ出しちゃったら、そこで終わり。サステナブル、つまり継続していくことはできないですもんね。

K: 今年本を出版したんです。その制作プロセスもものすごい試行錯誤で、2年間かかった。でもその作業こそが、次の発行へとつながるサイクルの一部なんですよね。

−: 『shichimi magazine』ですね。その中に、野菜の皮の写真がありますよね。とても印象的でした。普通だったら、単にゴミとして扱われてしまうものだから。

K: そう、すぐに捨てちゃう人が多いと思うんです。でも、あるとき料理中にそれを眺めていたら、皮自体がすごく美しいなって。それで、撮影したんです。そこから、食に対する意識が変わるかもしれないっていう想いもあって。

−: 新しい価値が、そこに生まれる?

K: はい。少なくとも私はそうでした。“B級品”って呼ばれる、形が不ぞろいな野菜も同じ。味は変わらないわけだし、ユニークだな、かわいいなって思う人たちが増えれば、需要が増えて、廃棄も減ると思うんですよね。

どんなライフスタイルなら、あなたはハッピー?

K:今までフードディレクターの仕事を通して、国内外さまざまな人と出会いました。その中で、私自身はどんな生活だったら幸せなのかって、すごく考えさせられました。
たとえば、買いものに対するスタンスでもそう。野菜をすべてオーガニックにしようとか、プラスチックアイテムを完全に排除しようとか、過去にトライしたことはあるんです。でも、無理があった。
自分にとって、譲れないものはなんなのか。あまり極端になりすぎず、自分の性質に合ったものをチョイスしていく。それこそがサステナブルなんだなって、いまは思っています。

−: まずは、自分を知ること?

K: そう思います。映画の中のあの夫婦は、「200エイカーの土地で自然農法による農園をつくる」ことを選びましたが、「世界のため」というよりかは、まずはあくまで「自分たちをハッピーにするため」の選択肢だったと思うんですよね。
その価値観がしっかりしているからこそ、結果、ほかの人々の共感を得ることにもつながって、そこからバランスや循環も生まれていくんだなって。映画を見ていて、改めてそう感じました。

Editor’s note

「サステナブル=持続可能」というテーマは、限定的な分野でのみ語られる特別なものではなく、私たちそれぞれの暮らしの中に存在するのだということ。また、極端な考えに偏りすぎずに、自分自身のライフスタイルに合ったものを選び取っていくことこそが、サステナブルなんだということ。KAORUさんの等身大の感受性を通して『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』という作品を鑑賞することで、そんなメッセージが浮かび上がってきました。あなたにとって、自分をハッピーにする選択肢はなんですか?

PROFILE

KAORU

フードディレクター。「Dress the Food」主宰。広告や雑誌、CMのスタイリング、ディレクションなど、幅広く活躍する。モノクロの人物写真の上に、野菜などの食材をのせて撮影する「Food On A Photograph」シリーズが注目を集め、2018年にはアメリカ・ニューヨーク、東京の2都市にて個展「Food On A Photograph」を開催。2022年には『shichimi magazine』を創刊し、日本のほかアメリカ、イギリス、フランスなどでも販売。10月には発売記念展を都内で開催予定。

photographer:Shin Hamada writer:Maki Nakamura editorial direction:Mo-Green Co.,Ltd.